第九十四話 虚偽の報告
その場に置いて、彼女ほど存在感を持っていたものはいないだろう。
今代勇者、アンナ。
彼女は王宮の謁見の間で国王と向かい合う形で立っていた。
「ほう。つまり、魔王は失踪。次代魔王候補が仮にその座についている状態だったと」
「はい。どうやら、その魔王候補とやらもその状況が気に入らない部下に暗殺されたようですが……これでいいですか? 史上初めて魔王を倒せなかった勇者とでも嘲笑っても結構ですが? それと、一応形式的でもいいので、魔王捜索部隊を出していただければと……まぁよっぽどか、魔族領のどこかに隠れてるでしょうし、無駄足になるのは目に見えていますが……」
だが、アンナと向かい合っているのは国王だ。
マアサの部下たちをその視線と一言で黙らせたとはいえ、見た目は年端もいかない少女が持つ威圧感などあまり意識していない様子だった。
それ以上にアンナの言っている言葉の是非を知りたがっていたのかもしれない。
「報告は以上です。ご質問は?」
「それは問題ない。まぁ君の言うことを信じて、部隊は手配しておこう……それと、王宮図書館利用の件も考えさせてもらう」
「えぇありがとうございます。本当にふがいなくて申し訳ないです」
「いや、国としても事前調査が不十分なばかりに君に迷惑をかけてしまった。まぁあれだ。勇者としての兵役義務の免除の他にも何か要望があれば、いつでも聞くぞ」
「ありがたいお言葉恐縮です。それでは失礼いたします」
アンナは、きれいにお辞儀をしてクルリと国王に背を向ける。
「あぁそれと、言い忘れていましたが、お師匠様の姿が見えないのですが、何かあったんですか?」
「いっいや……それはだな。今は王都を離れてれておる。そのうち帰るだろうから出直してくれ」
「そうですか……それは残念です。それでは失礼いたします」
残念そうな表情を浮かべたアンナは、明らかな動揺を見せている国王に背を向けて今度こそ、謁見の間を出て行った。
*
つくづくとんでもないウソをぺらぺらと言えたものだ。
アンナは、そんなことを考えながら王宮の広い廊下を歩いていた。
戦いたくなければ魔王が死んでしまったことにすればいい。とんでもない発案であるが、マアサの父が行方不明であるというのは、事実だし、魔族側の協力も得られたため、今代の勇者は戦わずして勝ったという構図が成立しているのだ。
「どうかされましたか?」
「いえ、なんでもないわ」
声をかけてきた護衛を軽くかわし、アンナは客間の前にたどり着いた。
「ここでいいわ。下がって頂戴」
「かしこまりました」
護衛の兵士たちは胸に手を当てて、頭を下げる。
その姿を確認したアンナは、扉を開けて客間へと入った。
「すっかり待たせちゃったね」
「いや、面倒だけどユキの興味は尽きるところを知らなくてな……あっという間だったよ」
「そう。ならいいけれど」
豪華な装飾がされた広い客間の中央に置かれたソファーにセイヤとユキの姿があった。
「まぁしばらくはここで過ごすことになるから、つまらないなんて言ってられないけど、なんか格式ばったイベントさえ終われば後はやることないし、それまでの辛抱ってところかな」
「まぁアンナ。勇者って思ったよりも面倒なんだな」
「そうよ。私なんて、勇者になるほか選択肢がなかったんだから、なおさらね……自ら望んでやるようだったら、こういった結果にはならなかったかもしれないけど」
アンナは、これでもかというぐらいのため息をつきながら、ドカッとソファーに腰掛ける。
やはり、客室の隅々まで見ているだけであろうセイヤたちとは違い国王とあうだけでもとんでもない疲労感だ。
やはり、あぁでもなければ一国の国王など勤まらないのだろう。
ついでにセイヤに頼まれていた王宮図書館の利用申請なんてものをしてしまったが、それが通るかすら怪しい。
アンナは、ため息をつきながらソファーで横になった。




