第九十五話 セイヤの常識
客間では特にすることがなかった。
そんなわけで、アンナとセイヤは自分がもといた世界の話で盛りあがていた。
どちらの話もお互いに興味を持てるような内容で、ユキはどちらの話も目を輝かせて聞いていた。
「それにしても一つの国が2000年以上続くなんて……ニホンはさっき言っていた天皇というお方が国を治めているの?」
「いや、昔はそうだったんだけど、今の天皇はあくまで国の象徴だよ。実際に政治をするのは国民の投票で選ばれた議員たちで、総理大臣っていう役職の人が国のトップになるんだ。そんな感じで会っていると思う」
迷宮にいたときは主に精神面において余裕がなかったため、あまりこういった話を聞く機会がなく、こういう風にゆっくり話をするのは初めてかもしれない。
セイヤが話す科学なる技術や民主主義と呼ばれる政治体制にはとても興味が持てた。
「そうだ。最低限のことでいいから、この国のこと聞いてもいい?」
「えっと、私は……」
「わかってる。でも、本当にさ、この世界のこと知らないんだよ。ボクの周りにいた人を見れば思い浮かべればわかると思うけど、マアサは魔王だったし、アリスは妖精、オリーブは観測者……少しでもこの世界の国に住んでいて、常識を知っているアンナぐらいだと思うんだよね」
「そういえば、そうか……」
一緒に迷宮を探索した人々の顔を思い浮かべてみる。
確かにこの世界の常識をしっかりと知っている人間というのは自分のほかいないかもしれない。
「はぁめんどくさいな……」
「あれ? アンナがそんなこと言うなんて珍しいね」
「あっ」
彼の口調がうつったのだろうか?
するりとめんどくさいなんて言う言葉が出てきてしまった。
「まぁともかく、この世界のというかこの国の常識よね……というか、それを知らないでよくここまで来たわね……」
ところどころおかしなところがあったが、失礼な態度があるという印象は受けなかった。
「そうね……まず大切なのは……」
偶然にも夜の舞踏会まで時間が開いていたのでじっくりとセイヤにこの世界について講義をしていた。
*
夕方になると、メイドたちがやってきて、アンナを控室に案内する。
今から、夜の舞踏会で着る衣装を選ぶそうだ。
あれやこれや着せ替え人形のように色々な衣装を着せられ、結局、白を基調としたドレスに決まった。
「なんか、アルドンサのやつにそっくり」
「いえいえ、アンナお姉さま、お似合いですよ」
「そう? ありが……ってユキはいつからそこに?」
「さっきから!」
いつの間にか、部屋に入ってきていたらしいユキはきっちりと着替え終わっていた。
彼女もまた、真っ白なドレスを身に着けていて、さながら天使のようである。
「それにしても二人そろって白色か……もっと、なんとかならないのかな?」
「白が嫌いなの?」
「そういうわけじゃないけど……」
なんというか、あぁ言った出来事のあとで彼女に似たような格好をするのが少々気に食わないだけだ。
だが、彼女の前では何とも言い出しにくい。
「まぁいいか……二人そろって白いドレス。いいかもね」
「やっぱりアンナお姉さまもそう思うの? セイヤお兄さまはどんな格好かな?」
「さぁそれは、舞踏会になったらわかるんじゃない?」
ここでふと、セイヤが舞踏会でちゃんとした振る舞いができるかどうか不安になったが、恐らく大丈夫であろう。
いや、そうだと信じたい。
なんだか、自分が一緒だったとはいえ、なんでここまでちゃんとたどり着けたのか不安になるぐらい常識的な面で無知であった。
「まぁ大丈夫かな……いや、大丈夫なはず」
自分にそう言い聞かせて、アンナは控室を出て行った。




