第九十六話 舞踏会と魔法使い
アンナが巨大な扉を開けると、とても大きいホールで、隅々まで豪華な装飾がされている。
そんな部屋で多くの貴族たちがアンナを拍手で出迎えた。
この状況を見ると、改めて今回の主役が自分だと再認識させられる。
この世界に来た時、少しばかり舞踏会に参加していたが、その時は決まって出迎える側だった。
しかし、今は違う。
勇者としても目的をしっかり達成。したかどうか怪しいが、無事に帰ってきたのだから歓迎されるのは当然かもしれない。
「勇者アンナよ。よく無事に帰ってきた」
「はい。ありがたきお言葉ありがとうございます」
ここに来る前にたたきこまれた格式ばった口上を一つ一つ思い出しながらゆっくりとあいさつを述べる。
「アンナ殿。あとで少しよろしいか?」
そんな中、あいさつを交わしていた貴族の一人がその言葉とともに小さな紙切れを手渡した。
「あとで確認します」
「お願いいたします」
貴族は、一例をして型にはまったあいさつを始める。
そうして、一通りのあいさつが終わるころには、かなりの時間が経っていた。
「それでは、無事生還した勇者アンナの今後の幸せを祈りまして……」
最後の最後に国王のあいさつを一通り聞いたところでやっと、アンナも食事をとることができた。
「お疲れアンナ。面倒だけど、よくあんなことやれるな」
「まぁそれが礼儀だから……本来なら、セイヤたちも一緒にいないとおかしいんだけど?」
「そうだったんだ……結構、面倒だね。礼儀作法って」
セイヤは反省するそぶりなど一切見せずに食事をほおばっている。
横にいるユキと並んでみると、どっちが子供かよくわからない状況だ。
「というか、どこから出したか知らないけれどその二本の棒は何?」
そもそも、この二人は見る限り、始まってから食事をするばっかりでまったく踊っていない気がする。 まだ、二人が貴族でないからなどの理由で通る気がするが、セイヤが持っている細い棒が何とも不可解である。
「これ? 箸っていう食事の時に使う道具だよ。王宮付きの職人さんと仲良くなって、面倒だけど使い方とかを説明して作ってもらったんだよ」
こいつはまたいつの間に……
それにしても、つくづく不思議な人だ。
いつの間にか人と仲良くなって、ちゃっかりいろいろやってもらっている。
こう見ているとかなりの自由人でうらやましい。
「まったく……そういう風に何も考えないで過ごせたら幸せかもしれませんね」
そう言って、アンナはその場を離れる。
その後もいろいろな人とダンスをしながら夜を過ごした。
*
舞踏会が終わったのち、アンナは先ほどの手紙に書かれた場所へと向かっていた。
「待ってましたよ」
「そうですか。待たせてしまいましたか?」
「いえ、そんなことはありません」
その男は、王宮図書館の扉を背に立っていた。
なぜ、こんな場所を指定して呼び出したのかは知らないが、彼は真剣そうな顔をしてこちらを見つめていた。
「あなたのことですから、変な用事ではないでしょうけど、なるべく手短にお願いします」
彼の名前は、イノセンシオ・バルケロ・アルベニウス。
アンナをこの世界に召喚した魔法使いの一人で王宮図書館の司書をやっている人物だ。
「こんな夜中に呼び出して申し訳ない……ただ、国王への報告内容について少しだけ確認したいことがあるまでだ……あの報告は本当か?」
「魔王が失踪していたっていうやつですか? ウソは言っていませんよ。そのうち、新しい魔王が立てられるなりなんなりして、新しい勇者の選定が始まるのではないですか?」
彼にはウソは通じない。
それは、昔からよくわかっていることだ。
「そうですか……次代魔王候補が死んだという部分もですか?」
「……」
痛いところをつかれてしまった。
あの報告において、唯一まったく根拠がない部分だ。
「何か困ることでも? ただ、私の魔法を使って事の真偽を確かめるだけですが?」
「それは、国王様からの命令? それともあなたの個人的な興味? あなたの魔法は、無実の人間を開放し、罪を犯した人間を正しくさばくためのもののはずです。個人的な興味だとしたら、あなたの能力の無駄遣いになるのでは?」
「そうくるか。やましい点があるととってよいか?」
「どうぞ、ご自由に」
アンナは、足早にその場から立ち去っていく。
これ以上会話して、彼の前でぼろを出してしまっては台無しになってしまう。
「そうか……」
アルベニウスは、去っていくアンナの背中を静かに見つめていた。




