第九十七話 アンナの違和感
豪華展覧に飾られた来客用寝室で誠哉は横になった。
しかし、この状況はあまりにも落ち着かない。
普段、こんなところで寝ないからであろうか?
「セイヤお兄さま。眠れませんか?」
「面倒なことにそうなんだよな……落ち着かなくて」
ひょっこりと顔を出して話しかけるユキは、基本的に睡眠は必要ないらしい。
「でしたら、少し外に出てみよ。城の外とは言わないけれど、城内を少し歩いてみたいな」
「城内か……まぁ自由に出歩いていいって言ってたし、大丈夫かな」
「だよね! だよね!」
期待で目を輝かせているユキの頭をなでて、誠哉は起き上がる。
「さて、行くか」
一枚上着を羽織って、誠哉とユキは手をつないで部屋を出ていく。
夜中の城内は昼間とは打って変わって静かなものだ。
ところどころ衛兵が経っていることを除けば、人もいないし明かりもほとんどついていない。
「静かだね」
「まぁな。みんな寝てるんだろう。あんなベットで寝れるなんて、ここの人らはすごいな」
この城にいる全員が全員、そんなすごいベットで寝ているわけではないとわかっているが、それでもそんなことを考えてしまう。
貴族の暮らしなんてものは、あまり想像したことなかったが、こうして様々なものを見ているとすごいと思えてくる。ただ、あこがれたりはしないのだが……
「あれ? セイヤどうしたの?」
廊下を歩いていたとき、後ろから声をかけられた。
声のした方を向くと、そこにはアンナが片手を腰に当てて立っていた。
「ちょっと、眠れなくて散歩をね……アンナは?」
「まっまぁ私もそんなところかな……せっかくだから、一緒に行かない?」
「面倒だけど、全然問題ないよ。と言っても、どこへ行くとか考えずにふらふら歩いているだけだけどね」
アンナは、ゆっくりとした歩みで誠哉たちに近づいてくる。
「そう。だったら、ちょっと私の生きたいところに行ってもいい?」
「別にいいけれど……どこだ?」
「まぁちょっとね。ついてからのお楽しみよ」
そういうと、アンナはクルリと踵を返して歩き始める。
誠哉たちはその背中を追いかけて歩き始めた。
「前にって言っても、この世界に召喚された直後なんだけど、この城の中でいい場所を偶然見つけたの。勇者としての修行をする中で時々時間を見て、よくそこへ行っていたのをよく覚えてる。師匠に出会ったのもそこだった」
「師匠?」
誠哉が聞くと、アンナは遠い昔を懐かしむような口調で返事をした。
「そう。師匠……先代勇者にして、近衛兵隊長。今は王宮にいないみたいだけど……」
「なるほど……先代勇者ね」
先代勇者がどのような人物か知らないが、近衛兵隊長なんてやっているのだから、国王からの信頼とかも厚いのだろう。
それにアンナが本当に残念そうにしているのだから、人に嫌われれうタイプのニンゲンではないもかもしれない。
「私は、どうしても師匠に会いたいんです。会って聞きたいことがある」
「そうなんだ。でも、面倒なことに先代勇者は城にいないんだろ?」
「えぇ。それも、ちょっとおかしな気がするというかなんというか……物凄く変な人だったけれど、私が何かするときは決まって、シャリシャリでてきて、こんな時にいないわけないと思うんだけど……」
「でも、本当に忙しいだけかもしれませんよ」
いつの間にかアンナの横に移動していたユキは、アンナの手をつかんだ。
「そうならいいんだけど……」
何が引っ掛かっているのか知らないが、アンナは立ち止まって天井を仰いだ。
「そう……かな……大丈夫ですよね。師匠……」
アンナのか細い声は、夜の闇に呑み込まれていった。




