第九十三話 意外すぎる決着
戦いは、当初の予想通りこれまでにないような長期戦の様相を呈していた。
いや、この少し前にアリスVSフーリというこれ以上の消耗戦を展開していた二人がいるのだが、そんなことを知っているのは、この場においてアリスだけだ。
つまり、誠哉が知るわけもない。
さて、そんな追求すべきでない問題は置いておくとして、弱点がわかってもなお、現状が打破できていないのが現実だ。
「どうしたの? 最初の威勢はどこに飛んじゃったのかしら?」
「わるかったな……ボクたち人間は君と違って疲労がたまりやすいんだよ」
「だよね。私も観測者になる前は、そうだったからね」
ケロッと一人だけ疲れた様子を見せていないのはオリーブだ。
今の今まで忘れていたが、一応彼女も観測者……人外である。(しかし、同じ方程式に当てはめると魔王であるマアサが疲れ切っている理由が見当たらないのだが……やはり、疲れないのは観測者だけなのだろうか?)
「まぁみんな疲れてるみたいだし、一時休戦にしましょうか?」
ここでアルドンサが突拍子もない提案をしてきた。
それに対して、誠哉たちは驚いて目を丸くしてしまうが、彼女はそんなことお構いなしだ。
「簡単よ、ちょっとしたお茶会。今まで通りよ……それに、私が席を外している間に向こうでは“面白いこと”が起きているみたいだし……そうなんでしょ? 断罪者さん」
「そうなのだー面白いことがおこってるのだー!」
アルドンサが少し上を見ながら話していると思ったら、まばゆい光とともに小さな少女が姿を現した。
「マリーズ・アドリーヌ・エルプなのだー記憶にないだろうけど、初めましてではないのだー」
そう名乗った少女は、軽く着地するとアルドンサに手紙を渡した。
「どうも」
「別にそれほどでもないのだー」
アドリーヌは、照れくさそうに頭をかきながら後ろへ少し下がる。
「面倒なくらい余裕だな」
「えぇ。別に攻撃してくれてもいいわよ。ただし、私は休憩しているだけだから……できれば休戦の方が戦いを長く楽しめると思うんだけど……」
つくづく、悪趣味な奴だ。
誠哉は心の中で悪態をつきながら、とりあえず休むことにした。
とりあえず、彼女の言葉に偽りはないのだろう。先ほど現れたアドリーヌと談笑したり、紅茶を飲んでみたりとリラックスしているとしか思えないような態度をとっていた。
「なめられたものですね」
「仕方ないよ。実力の差は歴然なんだもの……にしても、どうするか」
彼女への攻撃を仕掛けてもすべてあたる前にはじかれるか、あたっても無傷と言った状態だ。
「どういうこと?」
そんなことを考えていた時だ。
手紙を読んだアルドンサの雰囲気が一変した。
「えっと、そのまんまの意味?」
「いや、わかるわけないでしょ。要するに底の粗大ごみ以外に裏切り者が出たってわけ?」
「そういうことなのだー」
アドリーヌの返答を聞いたアルドンサは大きく舌打ちをして誠哉たちの方を向いた。
「あなたたち運がいいわね。スイッチを巡る戦いはまた今度にしましょう」
それだけ言って彼女は、どこかへ消えて行ってしまった。
「どうなってるんだ?」
誠哉が、つぶやくとほかの皆は分からないといわんばかりに首を振った。
「一応、勝ちなのか?」
「そうなのだーいろいろな意味でお前たちの勝ちなのだーそろそろ私も行くのだーそれと、外の魔物だったら、ユキで何とかできるように歴史をいじっておくのだー」
今度は、アドリーヌが光の粉となって消えて行く。
「何なんだ? いったい……」
一葉がある観測者の手を借りて、脱走したなどという事実を知らない誠哉からすれば、彼女たちが撤退した理由は全く、思い浮かばない。
しかし、自分たちが勝負に勝ったという事実に変わりはないのだろう。
「よしっとりあえず、魔物の問題も解決だし、これで目的は達成! ってことでいいんだよな? 面倒なことに実は違いましたなんてことは……」
「あるわけないですよ!」
「そうだね。これ以上の面倒事はさすがに嫌だからね」
「そうですわ。終わりよければってわけでもありませんが、そこそこいい終わりでは?」
「そうそう。私が魔物をいなく出来るんならいいんでしょ?」
「そうだな」
とりあえず、これは一時的に勝っているに過ぎない。
最愛の妹のためにもいずれ、本当の意味で彼女に勝たなければならないのだ。
そう心に決めながら、誠哉は皆と一緒に笑い合っていた。
読んでいただきありがとうございます。
なんじゃこりゃとか思われている方おられるかもしれません。
何はともあれ、次回のエピローグを持って、現在の『森の迷宮編』が終了となります。
ちゃんと決着がつけられなかったのは、戦闘描写に関する私自身の力の不足からだと思います。
このあたりについてはもっと精進していきますので、これからもよろしくお願いします。




