第九十二話 敵をだますにはまず味方から
「出来ました!」
オリーブが魔法の準備を始めてからどれくらいの時間が経っているかわからないが、ようやく準備が終わったようだ。
「よし! アリス!」
「わかってます!」
攻撃のタイミングを見計らって、アリスが瞬時に盾を解除する。
「全陣観測、動!」
オリーブがそういったとたん、あたりの雰囲気が一変した。というか、どこかのアニメなどでよく見る世界が灰色になるといった状態だ。(実際、自分たち以外の時間も止まっているらしい)
いつの間にか、オリーブの体から出た煙はアルドンサの体を包み、オリーブは何やらぶつぶつとつぶやき始める。
「異常なし、異常なし、異常なし、異常なし……異物を発見……除去、異常なし、異常なし、異常なし……」
煙がアルドンサの体を包んでから、約10分……目を閉じていたオリーブが一気に目を見開いた。
「わかりました……スイッチの位置が……」
解除宣言をしていないのだが、技が解除されて世界が元に戻る。
「あら、まさかあっさりとその攻撃を受けてしまうなんて……私も落ちたものね」
アルドンサは、ため息をつきながらさらに人形を展開させた。
「どうするつもり?」
「さぁな。面倒なことに弱点を突く暇がなさそうだからな。下手をしたら聞いている暇もないかもしれないしね」
誠哉は、大きな魔方陣を展開してアルドンサに向けて電撃を放った。
「誠哉さん! 攻撃を背中に向けてください!」
その声を聴いて、誠哉は電撃を彼女の背中へと集中させる。
しかし、その攻撃はアルドンサの持っていた人形に防がれてしまった。
「くそっ」
「なるほど……背中なのね。そういえば、背中はさすがに見ていなかったわ」
言いながら彼女は、自身の背後にたくさんの人形を置き、防御を固める。
「おいおい。面倒なことにこれじゃ、どうにも……」
ならないと続けようとしたとき、オリーブが小声で話しかけてきた。
「セイヤ君。実は、背中っていうのはフェイクなんですよね。実際は、前……おなかのあたりにあるみたいです。ただ、パッと見てもわからないようになっているみたいだね。彼女が気付いていないというのは、そういったことじゃないかな?」
「なるほど……だったら、マアサ達にはそのまま背中を攻撃させて、ボクは彼女をけん制する形で前側を攻撃……そんなところかな?」
「えぇ。それはいいアイディアですね。それで行きましょう」
誠哉は、彼女の背中に向けて攻撃しようとしている二人の間に立つ。
「マアサ、アンナ……背中への攻撃に集中してくれ。ボクは、前から攻撃して何とか、敵の手数を少なくしようと思う。まぁ特にアンナは後ろへの攻撃きついかもしれないけれど、がんばって」
「わかりましたわ」
「わかった。だったら、少し陣形が崩れるけれど、彼女の後ろに回るように努力するわ」
アンナは、一気に駆け出して後ろへと周り、マアサは新しい魔方陣を展開する。
一通りの攻撃魔法を解除していたオリーブは、アリスの造った盾の後ろで新しい魔法の準備を始めた。
「よしっとっとと決着つけるぞ!」
「おー!」
皆の声を聴いた誠哉は、満足そうにうなづいた。
そうしている一方で炎系統の魔法をアルドンサに向けて放った。
*
ちょうど、そんな頃。
迷宮の最上層よりもさらに上、天界と呼ばれる場所の一角にその人物はいた。
鎖はとかれ、ブロンズだった髪はかつての黒に戻っている。
出来損ないの神様こと沖村一葉は、物陰に隠れながら地上への脱出口を探っていた。
ちょうど、アルドンサが完成した時に髪をブロンズにしたのだから、彼女の見た目と自身の見た目が意外とそっくりに作られているなどとは気づいていないだろう。
「大丈夫? なんなら、もっとゆっくり移動しようか?」
疲れた様子のヒトハを気遣ったのだろう。
観測者にして『奇跡の双子』の二つ名を持つ双子の姉の方。アマーリア・ドミティッラ・セルヴァの問いかけにヒトハは“大丈夫”と言ってうなづいた。
「にしても、あなたこそ大丈夫なの? こんなことして……」
「はぁ自分の術使ってオリーブ助けちゃった時点で私は終わりだし……どうせなら、でっかいことやって終わりたいじゃない? 神様をこっそりと逃がしたなんて聞こえがいいじゃない」
「そうなの?」
彼女の考えはよくわからないが、ともかく助けてもらったのだ。
深く詮索しない方がいいのかもしれない。
そう考えた、ヒトハはおとなしく彼女の後ろについていくのであった。




