第八十八話 自立式人形
ユキが泣き止むと、アリスはゆっくりと世界の現状を説明していく。
当然ながらこの場所にいて、外の状況など知る由もないユキは、とても驚いていた。
「それじゃ、そのフーリって妖精が全部知ってたの?」
「えぇ。この先に大きな扉がある。そこにユキって名前の女の子がいるからって……そう言っていた」
「なんで……私の名前を? お姉さま以外知らないはずなのに」
ユキは複雑な表情をしていた。
これは、のちに聞いたことなのだが、この場所はもともとヒトハと彼女の造り上げた完全自立人形そして、一部の妖精たちしか出入りできなかった。
基本的に妖精たちはユキのことを“お嬢様”と呼んでいて、本名を呼ぶことはない。
何時しか、ヒトハとその人形がこの場所を訪れることがなくなると、彼女の名前というのは忘れ去られていったのだという。
「えっどういうこと? じゃあ、フーリは……まさか!」
アリスが血相を変えて、扉の方へと飛んで行った。
「ちょっと! アリス! 行っちゃったか……どうしたんだ?」
「さぁどうしたんだろ? ところで確か、お兄様の名前はオキムラセイヤなんだよね? お姉さまと関係あるの?」
「まぁ確かに妹の名前もヒトハだけど……見た目でいえば、君の方に似てるかな?」
「そうなんだ……でも、どうだろう? あの自立人形は、お姉さまがコードを入力すれば、人の記憶どころか、世界の歴史すら変えられるから、もしかして、記憶の中にある妹の顔が違うものされてるかもしれないよ?」
「そうか?」
なんでわざわざ自分なんかを……
そんなことを考えていると、歩み寄ってきたユキが左手を指しだした。
「頭下げて、調べてあげる」
「えっまぁ面倒だけと頼むよ」
誠哉は、ユキの手が届くぐらいの高さまでかがむ。
すると、彼女は小さな手をポンと誠哉の頭の上に乗せた。
「あぁこれはこれは……かなりぐちゃぐちゃにいじられちゃってるね……しかも、私を見て妹だと認識するようにいじられてるし……まぁこれはうまくいかなかったのか……それに、フーリっていう妖精のことや妖精の村のことも消されてるし、過去のことが思い出しにくいように調整されてるね……それと……」
「ちょっと待った。それ、本気で言ってるのか?」
次から次へと改変されている個所を口にするユキに話しかける。
「もちろん大真面目だよ。ここでウソついても仕方ないし……残念ながら、私の力じゃ元に戻せないとね……まぁもうちょっと色々あるっぽいかな?」
「おいおい……じゃあ、一葉にそっくりだっていう自立人形ってどんな奴なんだ?」
まさか、そんなものに会っていたりするはずがないが、人形というのだから壊れない限りずっと存在し続けているはずだ。というか、現にいじられているのだから存在しないわけがない。
何が目的か知らないが、それに会って記憶を戻してもらわなければならない。
そんな風に思っていたのだが、ユキが告げた人形の特徴はあまりにも衝撃的なものであった。
「名前は、アルドンサ・マリ・モンテジョル。黒い髪と白いドレス、瞳は黒。身長は私と同じぐらいだから、140センチ、細身で靴は履いていない……感情の抑揚があまりなくて、口調は淡々としている。目的のためなら手段を択ばないって、どうしたの?」
彼女が上げた特徴は、どれもある人物……観測者を名乗るあの少女の特徴と合致していた。
「あいつだ……闇夜の人形遣いアルドンサ・マリ・モンテジョルだ……ったく、この上なく面倒だな」
「闇夜の人形遣い? おかしいな、あの自立人形が人形を使えるなんてことなかったはずだけど……」
「いや、でもボクの記憶の中で一致するのは彼女だけだ。でも、どういうことだ? 確か、観測者って……」
話がまったく見えてこない。
まさか、一葉を捕まえた犯人というのは、彼女自身が作り出した自立人形だというのだろうか?
「ご名答よ。あなたの考えていることで大方合ってるわ。あっ大方だから、ご名答は間違いかしら?」
その時、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「アルドンサ・マリ・モンテジョル」
「えぇ。そうよ?」
誠哉が振り向くと、一葉が作り出した自立式人形にして観測者のアルドンサがいつも通りの無表情で紅茶のカップを片手に持って立っていた。




