第八十五話 人形使いの特徴
覚えたても同然の状態の誠哉に対し、熟練した技を持つ女の子は、圧倒的な火力で誠哉の人形を破壊していった。
そもそも、人形を使った魔法で使われる人形には二つの種類がある。
一つは魔力で作り出したもの、もう一つは術者自信がひとつずつ手作りしたものだ。
前者は、用意するのが早い代わりに威力や性能が劣ることが多い。それに対して後者は、用意に時間を要する代わりに威力だったり、性能だったりを細かく調整できるのだ。
ちなみに誠哉が使っているのが、前者で目の前の女の子やアルドンサ、鈴菜が使っているのが後者である。
準備期間を考えると、前者の方が有利なのだが、たいてい後者の方法を好む魔法使いは、長い期間をかけて準備をして、いつでも使えるようにしているのだ。
しかし、後者の方法を知っているのは、ある魔法使いとその弟子のみである。
それ故にいくら魔王城に置いてあるようなものとはいえ、魔道書になどのっているということはない。
「あはっあはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ! 弱い弱すぎるよ! そんなので私に勝てるの? 勝てないよね!」
女の子の体かふわりと浮かびさらに人形が増える。
ここまでくると厄介なんてものではない。
誠哉が避けて、女の子がさらに攻撃を仕掛ける……そんな状態が続いていた。
「ったく、本当にどう違うんだ、攻撃の威力、性能すべての面で劣ってやがる」
誠哉がわからない点というのは実はそこにあるのだ。
どれだけ魔道書を読み込んでも彼女たちの独特の人形の作り方がわからなかったのだ。
人形を媒体に魔法を使ってみたり、ここの意志があるかのごとく動かしたりと彼女たちの技術に対しての疑問というのは、恐らくこの先も解決しないのであろう。
人形で戦い続けても不利だと判断した誠哉は、人形をすべて消して代わりに魔方陣をいくつか描く。
当然ながら、その間も女の子の猛攻がやむことはなく、攻撃をよけながら魔方陣を描くというのは至難の業だった。
一つ、また一つと攻撃を喰らい、徐々に誠哉の体力を奪っていく。
「これで……」
必要な魔方陣を描き終わった時だった。
「これでどう? よけられないよね! あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」
これまでのものとは比べ物にならないぐらい巨大な球が誠哉の方へと迫ってきていた。
誠哉は、急いで結界を張ろうとするが、とてもじゃないが間に合いそうになかった。
「くそっ! めんどくさいな!」
結界による防御が無理だと判断し、腕を顔の前でクロスさせて衝撃に備えた。
しかし、いつまでたっても攻撃が飛んでくる気配がない。
誠哉が恐る恐る目を開けると、目の前には巨大な木の盾とそれを支えるアリスの姿があった。
「主。遅くなってすいません……」
「アリス……助かった」
「いえ、どうも」
ほんの数秒で巨大な球は消え去り、アリスは盾をいったん崩した。
向こう側にいる女の子は、不気味な笑みを張り付けたままだ。
「あれ? 人形が増えてる……いや、人形じゃないか。そうだよね。妖精さんだ! ねぇあなたの名前は? あなたは誰? 私のこと知ってる人?」
「……名前というのは先に名乗るものではないですか?」
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ! へぇそんなこと言っちゃうんだ! いいもんね! 私のお人形にしてから名前を付けてあげる! そうだ! それがいいや! あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」
それにしてもよく笑う。
戦い始めてからずっと、彼女は笑っていた。
「そんな風に笑っていても、“彼女”は帰ってこないと思いますよ。確かに笑顔や笑っていうのは大切だけど、あなたのそれは間違っていると思います」
アリスの口調は、静かで重みのあるものだった。
それを聞いた途端、女の子はふっと笑顔を引っ込めた。
「あんたに何がわかる?」
そう聞く、少女の口調は先ほどのものとは比べ物にならないほど冷徹なものだった。




