第八十四話 人形ごっこ
誠哉は、人形からの攻撃をよけながら脱出の攻撃を窺っていた。
これは単なる勘だが、自分は彼女には勝てない。そんな気がしたのだ。
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっよけたよけた! あははははは! すごいすごーい!」
女の子は、興奮した様子で手をたたいていた。
「ったく、なんつー破壊力してるんだよ……めんどくさい」
後ろの壁は、ことごとく破壊され、向こうの通路が見えていた。
しかし、そこからは脱出できない。
この子を閉じ込めるためなのか、強力な魔術による結界が張られているというのがここからでも感じ取れた。
「よそ見している暇はないよ! ほらほら! もっとよけて、踊ってよ! あははははは! でも、よけてるだけじゃつまらないよ! セーヤ!」
「そらどうも……面倒だけど仕掛けさせてもらうよ!」
異世界からの召喚はまだ完了していない。
だが、このまま防戦一方で勝てるとも思えなかった。
「そっちが人形ごっこならこっちも人形で挑ませてもらう!」
誠哉の周りに大量の人形が出現する。
これは、鈴菜やアルドンサの戦いを見たうえで真似したものだ。
普通ならば、一度や二度見ただけでできるような技ではないのだが、手元の魔道書はかなり優秀で人形を召喚する魔術も書かれていた。これを応用したのが、二人の術だと踏んだ上での行動である。
一部わからない点があるが、それぐらいはこの戦闘では大きな問題にはならないだろう。
そう踏んだ上での行動である。
要は相手が数で押してくるなら、こっちも数を用意しようと言うことだ。
「わーセーヤのお人形だ! あはっあはははははははははははははは! 面白い! でも、もっともっとだよ! まだまだ殺し足りないもの!」
「おいおい……遊び足りないってどうすればいいんだか……めんどくさい……」
当然ながら誠哉は、何をすれば彼女がなっとくするか知らないし、彼女の人となりなど全く持ってわからない。
それがわかったところでどうにかなるという問題でわないが、そういった状態は時として大きな過ちを引き起こすことがある。
「ねぇねぇ私は、まだまだ遊び足りないんだよ! そんな風にボーと立ってたらつまらないじゃない! くひっひっもっともっと難易度上げちゃうよ!」
彼女が手を広げると同時にさらにたくさんの人形が召還される。
それらは、女の子の指の動きにあわせて大輪の花を空中に描き出した。
「おいおい……なんだこりゃ……めんどくさいってレベルじゃないだろ……」
誠哉は、その光景を見て固まっていた。
*
「あーあ。負けちゃった!」
フーリは、床に仰向けになって寝転がっていた。
「わざとでしょ?」
「さーどうだか?」
「はぁあなたという人は……」
実際は、全力で出し切っていて、空を飛ぶ気力すらないのだが、それを悟らせないためにもあえていつ通りに振舞った。
「それじゃ、悪いけどいかせてもらいますから」
「待ちなさい」
先へと進もうとしていたアリスは、フーリの方を振り返った。
「まだ、止めるつもりですか?」
「いや、そんなつもりはないわ。そういう約束だもの……ただ、警告してあげようと思って」
「警告?」
アリスの表情は明らかに不快感を表していた。
しかし、これだけは伝えておかねばならない……フーリはゆっくりと体を起こして、アリスの方を向いた。
「そういわずにおとなしく聞きなさい……重要なことだから」
そしてゆっくりと話し始める。
この先になにがあるのか、それを知らずに進むのはあまりにも無謀すぎる。
フーリはゆっくりと“彼女”のことを語り始めた。
*
話を静かに聞いていたアリスはあくまで表情を崩さなかった。
「こんなところに住民がいるってことですか?」
「えぇ……その子は、ニンゲンであってニンゲンではない……人の身でありながら永遠の命を得た化け物……神がこの地に封印した、世界の均衡を保つためのシステムの一つと言ったところかしら……」
「じゃあ、神様の大切なものって」
「おそらく、あの子のことでしょうね」
このあたりまで話が及ぶと最初こそ、理解していない様子だった彼女の表情は驚きの色に染まっていた。
「でも、じゃあ、その子に頼めば……」
「無理ね。神が観測者につかまってから数百年……下手したら千年は、あの空間に閉じ込められているの。詳しい経緯は知らないけれど、見捨てられたと勘違いした彼女は壊れてしまった。おそらく、あの子のところにいってもむごたらしく殺されるのが関の山でしょうね」
背中に氷系統の魔法を喰らっているのではないかと錯覚するほど背筋が凍りついていた。
思い出すだけでも恐ろしい。初めて会ったときは、機嫌が良かったから助かったが、そうでなかったらと思うとゾッとするものがある。
思い出したくもない。
彼女の顔を思い浮かべるだけで頭が恐怖で埋め尽くされていった。
「だから、行くなら気を付けて」
警告はした。
今の自分に彼女は止められない。
半ばあきらめの感情を抱きながら、今度こそフーリは意識を失った。




