第八十三話 小さな狂気
アリスとフーリが戦闘を行っていることなどつゆ知らず、誠哉は巨大な扉の前に立っていた。
それは、アニメで見るようなまさに近未来の研究所というような扉であった。
誠哉が近づくと、ウィンという独特の音を立てて、扉が上下に分かれ開く。
扉の先の部屋は、真っ暗で何も見えなかった。
この先には、なにがあるかわからない。
誠哉は、覚悟を決めてゆっくりとそこへ足を踏み入れた。
「誰?」
その瞬間、部屋の照明が一斉に点灯した。
明るくなった部屋の中心には、背丈よりも長いのではないかと思うほど長い黒髪を持った女の子がいわゆる十二単に近い着物を着てちょこんと座っていた。
少しずつ目が慣れて行って、女の子の顔が良く見えてきた。
「一葉?」
その顔立ちは、妹とあまりにもそっくりだった。
ちょうど、孤児院の職員に拾われたときの見た目で髪をかなり伸ばした姿と言ったところだろうか。
「一葉? 誰それ?」
女の子は、ゆっくりと首をかしげる。
「違うのか?」
「わからない……ねぇ私は誰なの?」
彼女は、立ち上がってふらふらとした足取りで誠哉の方に向かってきた。
その姿が、なぜかかつての妹と重なる。本当に別人物なのだろうか?
「面倒だな……何にもわからないの?」
「わからない。私は誰? 何をしなきゃいけないの? どうしてここから出れないの? 教えてよ」
女の子は、ポツリポツリと抑揚のない声で誠哉に問いかけてくる。
不気味だ。
先ほどまでとは違って、誠哉はそういった感情を抱いていた。
「ねぇお兄ちゃんは誰? ここに何をしに来たの?」
「誠哉……沖村誠也だ」
「オキムラセーヤ?」
「そうだ」
すると、突然女の子が何かをこらえるような体勢をとる。
「おい、面倒なのはやめてくれよ……どうしたんだ?」
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ! はっはっはっはっはっはっはっはっはっ! オキムラセーヤ! セーヤ! あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」
女の子は、狂ったように腹を抱えて笑い出す。
「面倒だな……どうなってんだか……」
誠哉は、対応に困っていた。
明らかに普通じゃない。そう感じさせるだけのものが今の彼女にはあった。“狂気”。そんな言葉が誠哉の頭の中をよぎる。
「はっはっはっはっはっはっは! 決めた! ねぇセーヤ遊ぼう! 私と一緒に遊ぼうよ! もう決めたから! 一生遊びましょう! くっひひひ! あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ! 久しぶりの遊び相手だ! いっぱい遊んであげないと帰っちゃうから、早く遊んであげないと!」
「残念ながら、君と遊んでいる暇はないんだけどな……」
少々、気にはなるが女の子に背を向けて、部屋から出ようとしたその時である。
扉が勢いよくしまって誠哉を部屋に閉じ込めた。
「なっ!」
「帰っちゃダメだよ。だって、セーヤは私と遊ぶんだから……約束を破っちゃいやだよ?」
「面倒なことにそんなことを約束した覚えはないんだけどね……」
これは、冗談抜きでめんどくさいことになった。
誠哉は、参ったといわんばかりに頭をかきながらため息をつく。
「でだ? 遊んでもいいけれど、一生はさすがにな……」
「じゃあ、私を満足させて! そしたら、考えてあげる! くひひひひひひひひひひひひっあっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ! でも、できるのかな? そうだ。まずはお人形ごっこにしようか!」
彼女がそういったとたん、部屋いっぱいに大量の人形が出現した。
戦士から村人、貴族、執事、メイド、町娘など洋風だったり和風だったり様々なものがまじりあっている。
それだけならまだしも、人形たちがそれぞれ何かしらの武器を持っていることが一番厄介だ。
「人形ごっこねぇ。面倒なことにただの殺し合いをしようとしてるみたいに思えるんだけど……」
「違うよ! 人形ごっこだよ! もうすぐあなたもここに加われるんだから! くひひひひっ! 新しいお人形! さぁさぁ! 人形ごっこの始まりだよ!」
アルドンサと言い、鈴菜と言い、この世界の人は人形を使った戦闘が大好きなのだろうか?
誠哉は、動き出した人形たちを避けるように左へ走り出した。




