第八十二話 二人の妖精
フーリは、不敵な笑みを浮かべながら、虚空から召還した青い剣を構える。
対するアリスは木の立てと木刀だ。
攻撃に特化しているフーリと防御に特化したアリス……
妖精の村を守る最強の矛と仲間のために急速に力をつけた最強の盾……まさに矛盾と言う言葉にふさわしい両者の戦いは、互いの腹のさぐり合いという静かな始まりだった。
「へぇ木の盾に木刀ね……妖精の本来の力による攻撃ってわけね。でも、それじゃ私の攻撃は、防げないよ」
しかし、フーリは知らなかった。
残念なことに彼女は、先ほどの戦いをみれなかったのだ。だから、今のアリスの実力がかつてに比べて各段に向上していることなど知る由もない。
「そっちが防御するなら、こっちから攻撃を仕掛けるのが筋だよね」
フーリは、青い剣を振りかざして、アリスに切りきる。
アリスは、その攻撃を軽く受け止めると木刀を振るった。
その攻撃は、まっすぐフーリの姿をとらえて、横腹に命中する。
「やるね!」
残念なことにアリスは、自分一人での戦いを経験したことがなかった。つまり、自分が守っていてくれれば誰かが攻撃してくれたのだ。それ故に彼女は防御ができても大した攻撃ができなかった。
それでも、攻撃がフーリに当たると言うことは、彼女が攻撃の方にあまりにも傾倒してしまっていたということと、アリスの実力を下に見ていた故の油断が原因である。
つまりは、アリスが防御しつつフーリが攻撃を行えば最強といっても差し支えないコンビとなるだろう。
しかし、それはIFの話だ。
現に彼女たちは、敵として対峙していて、互いの意地をかけて戦っているという現実に変わりはない。
フーリが仕掛けてアリスが防ぐ。そんな状態が長いこと続いていた。
それが10分なのか、1時間なのか、はたまたそれ以上なのかは、誰にもわからない。
それほど長い時間戦っているにも関わらず、アリスの盾が壊れることもないし、フーリの剣が刃こぼれすることもなかった。ただ一方が攻め、一方が守る。
これだけ聞くと一方的だが、実際はほとんど互角だ。
仮にフーリの実力が上ならば、どこかのタイミングでアリスの防御を突破して、彼女を倒せるはずだ。
このことからもわかるだろうが、厄介なことにほんの少しだけアリスの実力が強かったがために互いに決定打がないまま、まさに泥試合の様相を呈していた。
「はぁはぁ……強くなったじゃない……」
「あなたがつかれているなんて……貴重な光景ですね……」
アリスの体力は限界に近かった。しかし、それは相手も同じだろう。
互いに肩で息をしながら、引く気配を見せなかった。
ともに決定打がないのだから、実力云々で勝負はつかないのだろう。
先に気力をなくして、勝負をあきらめたものの負け……そういったところだろうか。
「アリス……どうして、わかってくれない。私たち妖精は、神に仕える神聖なる存在だ。今のうちだったらここが神域だと知らなかったと言いながら戻ることができる。なのに、なんであんなニンゲンになんかついて行こうとする! 確かにニンゲンは私たちが持っていないものをたくさん持っているかもしれない! だが、奴らの好奇心に影響されて、こんな愚行をしているようであればたとえ、そいつが大切な仲間だろうが、脅されているにしても関係ない。お前は、二度と村に戻れなくなる! それでもいいのか!」
「えぇ。私は、もう村に戻るつもりはないので……主と一緒にこれからも歩んでいくだけです」
「そう。交渉も無理か……そうよね。あなたの強い意志があるのだから……」
アリスは、木の盾を消して、両手に木刀を持って、フーリに向かってとびかかった。
「そう。それが、あなたの強い意志による願いなら私をその一撃で倒して見せなさい!」
フーリは、あえて防御の姿勢を取らずにアリスの攻撃をその身で受けた。
直撃を受けたフーリは、重力に従って落下を始める。
「本当に、強くなったわね……」
ふっと笑って見せてから、フーリは目をつむって落下し、無機質な床にたたきつけられた。




