第七話 勇者さんの食糧事情
暗がりの中でぱちぱちと音を立てながら燃えるたき火だけがあたりを照らしていた。
「面倒だけど、今日も野宿か……」
「まぁそうね。でも、地上で寝て大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。そういう風にしてあるから」
本来、森の真ん中で大の字になって寝るという行為は野生動物等に寝込みを襲われるリスクを考えるとかなり危険である。
しかし、誠哉の場合は別だ。魔王城でどさくさに紛れて持っていった魔導書に載っていた結界魔法により日が沈んでいる間なら自分たちの存在を錯覚させ、見つけられないようにする魔方陣を展開しているのだ。
ついでに言わせてもらうと普通なら一晩の間、一人で魔法を使い続けるのは相当困難らしいが、誠哉は生まれつき魔法を使うエネルギーである魔素を豊富に持っているらしく、よっぽどのことがない限りそれが切れるということは起こさないらしい。
そもそも魔法というのは、自然界に存在する力と自身の中に眠る魔素を混ぜることで魔力が発生し、魔法を発動することができるのだ。
魔法を使う上で問題があるとすれば、呪文や術式が覚えられないことだろうか……
「まぁあなたが大丈夫っていうならいいけど……食料って何を持ってるわけ?」
「干し肉とかそこらへんで採った果物とかかな? めんどくさいけど食べられるものとそうじゃないものは選別してあるから安心してもらってもいいよ」
言いながら食料をたき火の横に出していく。
誠哉自身、森への長期滞在は考えていなかったため、食料は魔王城を脱出する直前にくすねたものと森の中でアリスが食べられるものだと教えてくれた果実しかない。
出来れば川などで魚が取れると理想的なのだが、今のところそれらしきものを見つけることはできなかった。
「大丈夫なんでしょうね? 暗い森の中で若い男女がたき火にあたる。渡した食料に神経毒を仕込んでおいて動けない私を!」
「主がそんなことするわけありません! そんなことを言うなら出て行ってください!」
「えっと……すいません妖精さん」
ローブの中から飛び出したアリスが懸命に反論する。
その気迫に驚いたのか、アンナはたじたじになりながら謝罪の言葉を口にしていた。
「まったく! 森に入って食料の一つも持っていないなんて、主が居なかったらあなたは死んでたんですからね?」
「はい。わかっております」
なお勇者たるアンナが持っているのは剣が一本のみで他には何も持っていない。
何でも森の入り口にある村の人に一日ですぐに抜けられる森だから、食料を持たなくてもいいし、大した荷物もいらないといわれたらしい。理由はよくわからないが、彼女は完全に村人にはめられているようだ。
そうでなくても、森に入るときは食料が必要のはずなのだが……
「まぁいいわ。あなたは魔王の関係者じゃなさそうだし……いただくわ」
それだけ言うとアンナは誠哉の返事を待たずに干し肉を食べ始める。
実をいうと誠哉は魔王の兄ということで関係者どころか親族なのだが、目の前の勇者がそれを知るすべはない。そんなことよりも今、目の前で起こっていることの方が重要だ。
「それは、割とめんどくさい手段で手に入れた割と重要な食糧なんだが……」
「いいじゃない。レディーファーストよ」
「そんなにめんどくさいレディーファーストはないだろ」
「そうですよ! それだったら、小さな私が最優先です!」
食料がなくなり、生命維持が危うくなった場合は最悪、鳥かアリスを飛ばして魔王に助けを乞う羽目になってしまう。
妹に食料支援を求めるのがかっこ悪いとかそんなプライドより以前にひしひしと身の危険を感じてしまうのだ。というか、自分の目の前で魔王と勇者が出会うとかいろんな意味で避けたい。
「いつ抜けられるかわからないんだから、食料は大事にしてくれ」
「食料は食べるためにあるのよ。なかったら探せばいいわ」
「簡単に言わないでくれ。本当にめんどくさいから」
ダメだ。この勇者本当に駄目だ。
心からそう思った。こんな調子だから仲間がいないのではないのだろうか? そして、完全に魔王城の位置を誤認してしまっているのではないのだろうか?
何はともあれ、戦う前に魔王が勝っている気がしてならない。
「難しい顔してどうしたの? 食べないなら全部もらうよ」
「めんどくさいことになるからやめてくれ……まぁ食べるけど……」
誠哉も食事をとり始めるが、三日分ほど用意していたはずの食料は次々とアンナの胃の中に消えていき、本格的に魔王と連絡を取ろうかと考えてしまった。
かなり大食漢の勇者様です。そして、食べてもなぜか太らないタイプ。
勇者のおなかを満たすのは並大抵ではありません。
これからもよろしくお願いします。




