第六話 少女の正体
美しい森の中で仲間と出会い冒険する。美しいBGMがかかっていたらどんなに素晴らしいことか……だが、当の仲間はなかなか名乗ってくれなかった。
「面倒だけど名前聞いてもいい?」
「また、面倒って……私のこと知らないの? まぁいっか……私はアンナよ。これでわかった?」
わかったかと聞かれてもさっぱりだ。
目の前の少女は、堂々と胸を張っているのだが、いまいち彼女の正体がつかめない。
だが、ここまで言い切るのならば、相応の有名人なのだろう。
「まさかわからないの? 私もまだまだってことかしら……」
「って言われてもな……面倒なことにもともとこの世界の住民じゃないから何とも……」
「えっ異世界人なの!?」
少女……いや、アンナの叫びが森に響いた。
「なんだよ……いきなり大声出して……」
「えっいや……その……君が異世界人だったから驚いたわけじゃないというかなんというか……」
「そんなに珍しいの?」
「うん」
納得できないことはない。少なくとも、日本にいるときは異世界人にあったことがないし、遠くから来たといっても地球の中の人間である。(なお、日本にいたときに一番遠くの出身だった人はブラジルからの留学生だ)
そう考えると、アンナの反応にも十分納得がいった。
「なるほどね……私の職業はあえて言うなら勇者よ。こことは別の世界から召喚されてきたの。だから、余計に驚いちゃったのよ」
「なるほどね……そういうことか……」
勇者召喚されるの早いな。というのが率直な感想だ。だって、現職の魔王が王座に座ってから一週間たっていない。イメージとしては、なんかめんどくさい儀式を経てみたいな印象があったから、こんなにさっくり召喚されているとは思わなかった。
そして、魔王の城の寸前まで迫っているとは思いもしなかった。
「えっと、どうして勇者が召喚されるなんて話に?」
「魔王を倒すために決まってるでしょ。あなたは知らないかもしれないけれど、先代いや先々代ね……が人間に戦争を仕掛けて、それを現職の魔王が継いだのよ。それで、もともと魔王城に向かっていた私に白羽の矢が立ったの。まぁ目的は変わらないわ」
「なるほど……それで? 魔王の城ってどこにあるの? いや、なるべく面倒なことに巻き込まれたくないからさ」
曲がりなりにも魔王は妹だ。一応、勇者がどの程度まで把握しているか知っておく必要があるだろう。
場合によっては、アリスあたりを飛ばしてピンチを知らせてやるのも手かもしれない。
その場合、下手したら喜び勇んで勇者に奇襲を仕掛けてきそうだが……
「まぁこのあたりにはいないでしょうね。なんか、魔王がいるところってこんな明るい森の近くなわけないし……私が睨んだところだと大陸北西部の荒野の奥が怪しいわね」
「えっ?」
思わずそんな声が出てしまった。本当に彼女は勇者なのだろうか? 国王なりなんなりから大体の場所ぐらい聞いていてもおかしくないはずだ。それとも、この国の上層部は魔王の実態がわかっていないのだろうか?
ともかく、彼女自身は森を抜けていき、北へ向かうようだ。
「それで? あなたは森を出たらどうするの?」
「どうするって?」
「異世界から迷い込んで当てがないんでしょ? せっかくだったら、一緒に世界を救いに行く?」
どんな誘い方だよ! とつっこみたかったが、それは言ってはならない気がした。にしてもなんだ。一緒に世界を救いに行く? ってだから仲間がいなんじゃないのか?
「後半から駄々漏れよ。仲間がいなくて悪かったわね」
いつの間にか、アンナの剣が誠哉の首筋にあてられていた。
「いや……その冗談です。マジで」
「ならいいけど……本気だったら首と体がおさらばしてるところだったわね」
「はい。すいません」
勇者を怒らせてはいけないらしい。結局、自分が名乗ることはできなかったが、気になればそのうち向こうから聞いてくるだろう。
そんな風に考えた誠哉は、アンナとともに出口を求めて歩き出した。
魔王に続いて勇者の登場です。そして、魔王城の近くにいながら痛恨のスルー! これには、いろいろとわけがあります。
これからもよろしくお願いします。




