第五話 VS鹿神
突然、腕を引かれたために思いきり地面に倒れこむ。とその瞬間、鹿神が猛スピードで後ろを通過していった。
「いてててて……」
「大丈夫?」
「まぁ何とかな……」
どうやら誠哉の手を引いたのは自分を見下ろしている少女のようだ。
「ありがとう」
「礼を言っている暇はないわ。というかあれは何?」
部屋の向かいの壁で頭をぶつけた鹿神はひるんでいるようだ。
少女は剣、誠哉はナイフを構えて相手の出方をうかがう。
「さぁな。ここの妖精が言うには鹿神っていう魔物らしいが……」
「魔物!? なんでそんなものがいるのよ!」
少女の顔が驚きと絶望で染まった。
それはそうだろう。魔物は厄災の象徴のようなものだ。それが、こんな森の中を闊歩しているのだから、そうなるのもうなづける。
「わかったら苦労しない。面倒なことにあれに目をつけられて相手をしなくちゃいけない……まぁイノシシみたいにまっすぐにしか進めないみたいだけどな」
「なるほど……壁にぶつかってあんなふうに目を回しているときがチャンスってわけね」
「まぁな。どうせ目をつけれてるのは僕なんだからさっさと逃げたらどう?」
「はぁ……こう見えても私は結構戦えるわよ。まっせいぜい足手まといにならないようにね」
先ほどまでとは雰囲気が変わったことに少なからず驚いてしまった。口調こそ変わらないが、彼女を包むオーラ的な何かが大きく変化したのを読み取れる。
「なんだよ……これ……」
かなりの気迫を感じた。おそらく、彼女の実力は魔王であるマアサと同等かそれ以上であると感じさせた。
「見たところは剣で戦うようだし面倒だけど、後ろから魔法でサポートさせてもらおうよ」
「……出会ったばかりの奴に背中を預けるなんて不安だけど、このさい仕方ないわね。つーか面倒って何よ。面倒って」
「めんどくさいけど同感だね。できれば、実力もわからない相手と組みたくはないものだ……でも、今は非常事態だ」
のんきに会話している間に鹿神は目をさまし再びこちらへ突進し始める。
二人でそれぞれ別の方へ飛び、壁へ向けて攻撃する準備を整える。
猛スピードで走っていた鹿神は止まることはかなわずに壁へ思い切り衝突した。
「いまだ!」
「わかってるっっての!」
少女がどう見たって女の子が振るうには重そうな剣を軽々と持ち上げて鹿神へと切りかかっていく。
誠哉は、魔道書片手に炎の遠隔魔法をかけることに専念する。
「偉大なる五大元素、炎よ! 我に力を! 炎の弾丸!」
立ち上がったところで攻撃を喰らい体勢を崩した鹿神に少女の剣が襲った。
「たぁぁぁぁぁぁぁ!」
少女はそのまま鹿神の体を大袈裟に切りさく。
「あんた! さっさと魔法を討ちなさい!」
「ったく、んな連続で打てるわけないだろ……めんどくさいな……」
口と体は案外別で動くものだ。
しまいに雷撃の魔法を喰らわせ少女が今一度切りさくと鹿神は動きを止めた。
「ふう……思ったよりもあっけなかったわね」
「骨のある相手だったらめんどくさすぎて相手してられるか……」
すっかり勝った気になっていたその時、少女の後ろで伏せていた鹿神がゆっくりとその巨体を起こした。
「にしても……」
「危ない!」
口よりも早く体が動いていた。
少女を突き飛ばして、ナイフを鹿神の頭へ向けて投げた。
ナイフは、見事に鹿神の頭に刺さり、今度こそ鹿神は息絶えた。
「……ありがとう」
「そりゃどうも……ところでこの森の出口知らないか?」
少女はぽかんと口を開けたまま固まってしまった。
それはそうであろう……なぜならば……
「それ……私も聞こうと思っていたのに」
少女の方も迷宮で迷子になっていたからである。
「あーもう! 久しぶりにまともそうな人と話ができたのにー!」
「主! それってどういうことですか! 私がまともじゃないと!」
「君は妖精。僕が言っているのは人間のこと」
「ならいいです」
誠哉はため息をついて空を見上げる。
そして、叫んだ。
「どうしてこうなるんだー!」
迷宮探索四日目。パーティに迷子が一人加わった。
迷子の少女が仲間になった! 結局、迷子のままです。はい。おそらく、しばらくは迷宮探索が続くかと……
これからもよろしくお願いします。




