第四話 巨大な鹿
マアサと(強制的に)別れた後、急に機嫌が良くなったアリスとともに迷宮の出口を探していた。
あの様子なら、城に連れ戻されることもないだろう。そう考えると何かが吹っ切れるように一気に気が楽になった。
「主。急に明るくなりましたね」
「えっそう見える? まぁ面倒事が消えてなくなったからね」
「そうですか! そうですよね!」
誠哉につられたのかアリスの表情も明るかった。
森の妖精というのは魔王を嫌うものなのだろうか……いまいち解せない。ご近所さんなのだから仲良くすればいいものを……
「まぁいなくなって本当に静かになったというか……主?」
「しっちょっと静かに」
「また魔王ですか?」
「違う……魔王じゃない」
かすかだが、何かの明確な殺意を感じた。
こちらに向いているわけではなさそうだが、相手は只者ではないだろう。
「なに……これ……森が暴れている」
アリスも何かしらの変化を感じ取ったようだ。
彼女の表情にも緊張の色がうかがえた。
突如、巨木が倒れて巨大な生物が姿を現した。
ちょうど、真っ赤な巨体で体の倍ほどの角をはやしている様はシルエットだけ見ればシカのようだ。ただサイズが違うだけで……
「鹿神! なんでこんな魔物が!」
「面倒だな……森には魔物はいないんじゃなかったのか?」
「私にもさっぱりです。本来ならこの森はおろか、この世界から魔物は根絶されたはず……」
計算外だ。魔物が存在しないということは他でもない前任の魔王の時代からの従者たちから聞いていたので情報の信ぴょう性は疑っていなかったのだが、目の前に現れてしまっては信じざるを得ない。
「なぁこんな時の対応はどうすればいいと思う?」
「そうですね……主的に言えば“面倒だけど始末するしかないか……”ってところでしょうか」
「つまり、戦いは避けられないってわけだな」
手持ちの武器はナイフ一本とかなり心もとないが、どこからかわいてくる知識のせいで使える魔法を使えば何とか補えるだろう。
「来ます!」
「わかってる!」
こちらに気づいた鹿神がイノシシのごとく突進してくる。
とっさに横の通路に身をかくし何とかやり過ごす。
「あぶな! これ完全に鹿の動きじゃねーだろ!」
「主! 鹿神は基本的に突進しかできません。なので、壁にぶつかったタイミングで背中から攻撃してください!」
「通路でやる戦法じゃねーだろそれ! 面倒だけど広間まで誘導するしかないってことか」
基本的に多くの通路が複雑につながることにより迷路を構築している迷宮であるが、いくつか開けた場所が存在する。
その大きさはまちまちだが、記憶が正しければ中程度の大きさの広間を通ってきた。
「ぶつかってからこっちに突進するまでの時間は分かるか?」
「さぁ……随分向こうまで行ったようですけど、一度こちらを認識していますからすぐに引き返してきますね……はっきりとは言えませんが、あの広間に戻るのなら急いだ方がいいと思います」
「くそっめんどくさい!」
見たところ攻撃を避けられそうな場所は、この通路を出ると先ほど鹿神が出てきた場所だけだ。
誠哉は、一心不乱で広間に向けて走り出した。
「戦闘するにしても逃げるにしても広間にたどり着かないことにはどうしようもありません! がんばってください!」
「わかってる!」
口ではそうはいっているものの実際は相当厳しいだろう。
鹿神は走り出せば弾丸のごとく早い。それよりも早く移動することも空を飛ぶこともできないため、鹿神がひるみ状態から復活するまで待つしかない。
「本当にどうなってやがる!」
思わずそんなことをつぶやいてしまう。
「鹿神が目覚めました!」
「めんどくさいな!」
後ろから鹿神が突進してくる中、体中の筋肉にムチを入れて広間まで走り抜ける。
鹿神が確実に近づいてくる。
「おらぁぁぁぁぁぁぁ!」
「主! がんばってください!」
上空からの妖精の声援を受けながら広間まであと一歩と迫った時
「こっちよ!」
何者かに突然、腕を引かれて広間の方へ引き込まれた。
ほのぼの行くはずが戦闘が始まる雰囲気……次回は、ハーレムを構成する女性の一人が登場する予定です。
これからもよろしくお願いします。




