第三話 魔王と妖精と
結局、マアサとアリスを引き連れて森を散策するという奇妙な図が出来上がっている中、誠哉はいかにしてこの状態を脱するか考えていた。
アリスはともかく、マアサは即刻ご退場願いたかった。とりあえず、ずっと腕にくっつかれていると非常に動きづらいし、なんだかアリスの表情がひどく怖い。
「あのーアリス?」
「話しかけないでください。ちょっと怒りが沸点に達しそうなので」
「あらあらあら……私とお兄様の仲に嫉妬しているのかしら? 私は魔王よ。勇者なんてちょちょいのちょいで退治してお兄様と私の理想郷を造りますの。その暁にはあなたも仲間に入れてあげてもいいわよ」
「結構です。魔王様は主から早急に離れて魔王城にお戻りになったらどうですか?」
なんだか、出会った瞬間から二人の仲は最悪でずっとこんな調子だ。
おそらく、マアサが抱き着いていたせいでアリスがずっとつぶされていたのが原因だと思うのだが……
「なぁアリス。いい加減機嫌直したらどうだ?」
「いーえ! 私は変態魔王と関わる気なんてありませんから!」
「あーら怖いですわーこの魔王を前にしても屈しないなんて!」
この二人の見事なまでの不仲はどういったことだろう。
いくらなんでも仲悪すぎないか?
「っていうかマアサ……お前はこんなところにいていいのか? このまま帰らないでここにいると非常に面倒なことになるんだけど」
「あらあら! 私が帰るときはお兄様と一緒に決まってるじゃないですか! そうでなければ、私は……私は……」
マアサは顔に手を当てて泣き出してしまった。
「わかった! わかったから泣くな!」
これはまずいと頭をなでながら声をかける。
アリスの視線が鋭くなった気がするが今はそんなことは気にしてられない。
「お兄様! それではご一緒に……」
「嘘泣きかよ!」
顔がパッと明るくなって思い切り抱き着いてきたマアサを引きあがそうとするが、いかんせん相手は天下の魔王様だ。どこにでもいる一般人な誠哉が簡単に引きはがせるわけがない。
「主から離れてください!」
「いえいえ! きっと私とお兄様は赤い運命の糸で結ばれておりますの! ですから、ここからどくなど言語道断! ありえませんわ!」
「ありえなかろうがなんだろうがさっさとどいてくれ!」
このさい仕方ないとばかりに魔法を発動する。といっても知っている魔法の種類など限られているため、単純なものしか発動できないのだが……
「空を走る雷よ! 我に力を!」
あまり威力は高くないが、ゼロ距離からの電撃である。気絶ぐらいしてくれたらありがたいなと思っての選択であった。しかし……
「あぁ! お兄様の魔法によるムチ! 最高ですわ!」
魔王は恍惚の表情でもだえていた。
そう。誠哉は一番大切なことを忘れていたのだ……この魔王は超がつくほど喉変態であるということを……
「うわぁ……」
電撃を喰らっているマアサを見たアリスはドン引きしていて、こんな奴にかかわりたくないというのを全身で表現しながら確実にこの場から離れようとしていた。
「アリス! めんどくさいだろうがこの場にいてくれ」
このままマアサと二人になれば何をされるかわかったものではない。先ほどから少しずつ電撃の出力を上げているのだが、さすが魔王。いくら攻撃されても痛いどころか快感を覚えているらしい。
別の攻撃方法を考えようかというその時、背後から鋭い声が聞こえてきた。
「魔王様!」
その声で先ほどまでの様子とは一変してマアサの体がビクッと跳ね上がり、固まってしまった。
「このようなところで何をされているのか聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「いぇ……えっと、旅立たれてしまうお兄様をちゃんと見送ろうかと……」
「なるほど……セイヤ様にもしかと会えたようですし、公務に戻っていただけるということですね?」
「えっと……それは……」
魔王たるマアサを圧倒している人物は、先々代の魔王の時代から魔王城のメイド長を務めているノエルだ。
史上最高にして最強のメイドと呼ばれているらしく、たとえ魔王でも彼女には屈せざるを得ないといわれているし、事実魔王は彼女に勝てない。
「いや、だから……その……」
「セイヤ様。失礼いたしました」
駄々をこねるマアサを文字通り引きずっていくノエルの姿は、メイドよりも軍の方が似合うのではないかというほどの覇気を感じさせていた。
魔王様。まさかの即ご退場です。
しかし、この後もちょこちょこお城を抜け出して誠哉の前に現れます。
これからもよろしくお願いします。




