第二話 魔王急襲
右を見ても森。左を見ても森。上を見ても下を見ても変わらない。
「なぁアリス……このままふらふら歩き続けるのも面倒だからさ、本当に出口とかわからないの?」
「はい。先ほども言った通りさっぱり……何せ森を出たことがないので……」
「まぁ気にしなくていいよ。そんなに急いでるわけでもないし」
口ではそんなことを言っているが、内心穏やかではない。誠哉としては一刻も早く魔王城から離れたかった。
この迷宮は魔王城からほど近く、土地勘もないため追ってが来た時に戦闘が避けられないからだ。今のところ魔王の手の者を見ることがないから、無理に連れ戻そうという考えはないのだろうが、あの妹のことだ。今すぐにでも探せとか言い出していることだろう。
「大丈夫ですか?」
「えっ何が?」
「急に黙ってしまわれたので……」
「あぁ気にしなくていいよ」
声をかけた途端に心配そうな表情を浮かべている妖精の顔がパッと明るくなる。つくづく感情が表に出やすい奴だ。
「そういえば、この森には他にも妖精はいるのか?」
「えっと……まぁいるといえばいますね……あまり他の妖精との交流がないためにこんなのがいてみたいな話はできませんが……しかし、その必要はありません! 他の妖精よりも主のことをわかっていると自負しています!」
まったく……この妖精の自信はどこから湧いてくるのだろうか……何も知らずに迷宮に足を踏み入れてしまった自分に大きな問題があるのは否めないため、あまり強く言えないのだが……
「にしても、森の中はずっとこんな感じなの?」
出口を聞こうとしても知らないものは聞き出せないため、森の構造を調べることに専念しようと思った。
「えっと……このままいけば」
「しっ隠れて」
何者かの気配を感じたため、しゃべりかけたアリスの口をふさいでをローブの中に隠し、ナイフを手に取った。
「どうしたんですか」
「何かくる……たぶん、盗賊なんかとは比べ物にならないめんどくさい奴が……」
誠哉の感が正しければこれからくる人物はまさにラスボスと呼ぶにふさわしい人物だろう。魔王の座を投げ出した最高にして最大の理由を作った人物かそれと同等の力を持つであろう誰かが接近してきているのを感じた。
とりあえず、近くの茂みに身を隠してみるが相手が自分を探しているのならば、このような行為はまったくもって無意味だろう。
不幸なことにその気配は確実にこちらへ接近してきていた。おそらく、茂みから飛び出した途端に目の前にその人物がいるぐらいの距離のはずだ。
「仕方ないか……」
観念したようにつぶやいた誠哉は、ナイフを手に持ったまま茂みから出た。
「めんどくさいな……やっぱりお前か」
「何か不都合でも? お兄様に置かれましては、私がいらないと申されるのですか?」
「それよりも仕事はいいのか? 決まりがどうであれ君が魔王であることは事実だろう……にしてもおとなしいな」
目の前に立っている小柄の少女こそ誠哉をこの世界に召喚した張本人にして魔王のマアサである。
普通に考えればいきなり魔王が出てくるとは思わないが、初日に見せた彼女の行動力を考えればありえない話ではない。
「お兄様~!」
「しまっ!?」
目の前のマアサの影がゆらいだ直後、背中から大きな衝撃が襲った。後ろからマアサが抱き着いてきたと気づいたのは前のめりに倒れて地面に頭をぶつけてしまった時だ。
「あぁ! お慕い申し上げております! 我がお兄様~!」
「ばっ離れろ! こんなところ人に見られたら!」
「何を申しておりますの! 人の目なんてないじゃないですか! それとも、お兄様はローブの中に隠している妖精がよっぽどお大事なのかしら?」
「気づいていたのか! だったらむしろどいてくれ! 面倒なことにせっかくの案内役がつぶれるだろうが!」
今のところ案内役をしっかりと果せているか怪しいところであるが、このまま自分のローブの中で妖精が圧死するというのは気分のいいものではない。
結局、力づくでマアサを引きはがすまでの数分間、アリスはローブの中でつぶされていた。
さて、第二話にして魔王様の登場です。
彼女は今後、登場するある人物とともにメインヒロインの一人となる予定です。
これからもよろしくお願いします。




