第七十六話 オリーブと先生(後編)
男が宿泊し始めてから大体半月が経とうとしていた。
オリーブは、すっかり男と親しくなり、毎日のように会っていた。
「ほら、これが炎を出す魔法」
男の手に炎が浮かぶ。
男は魔法使いだった。男の魔法は、これまで見たどの魔法使いとも違っていて、たくさんの魔法を使えた。
「すごいすごい!」
「だろ? じゃあ、今日は炎系統の魔法だ」
「はい!」
男……いや、先生は何を思ったのか、オリーブに対して様々な魔法を教えてくれた。
オリーブは、オリーブでスポンジのように先生の技術を吸収していった。
*
時は経って、オリーブが先生と出会って十年が経とうとしていた。
あの後、オリーブは先生について旅にでた。
男はいわゆる勇者と言うものだった。といっても、現在とは意味が違っていて、国から選ばれた魔物退治を専門的に行う人のことを指す。
「いいか? これから、相手をする魔物はすごく強い。しっかりと準備をしてから、挑まないとな」
「はい」
たったの五年の修行だというのにオリーブは、先生に近い実力を身につけていた。
この成長に対して先生が何を思ったのか知らないが、最近はオリーブに戦闘をさせて自身は遠くから見ているということが多くなった。
オリーブは先生の期待に応えようと懸命に修行を重ねる。
そんな日々が続いていた。
「そうだ。今回の魔物は俺も手伝う。そういうつもりで準備してくれ」
「えっ? そんなに強力なんですか?」
「あぁそうだ」
そういう彼の顔は至って真剣で、気分を引き締めさせるには十分すぎた。
「先生……」
「心配するな。まぁいつも通り何とかなるさ」
前々から気になっていたが、最近、先生はどこか元気がないように見える。
あくまで気のせいだといいのだが……
「そうだ。前にも話したと思うけどさ、ボクの願い……」
「えっ? 魔物がいなくなって人々が平和に暮らせる世界のことですか?」
「あぁ。ボクに何かあったらその遺志を継いでくれ」
「えっ先生何を言って!」
まるで、これから死んでしまうような言いようだ。
焦って立ち上がったオリーブの頭を先生はわしわしとなでた。
「そんな顔するなよ。さっきも言ったようにいつも通り何とかなるよ。さて、そろそろ行くぞ!」
「はい」
それが、先生とオリーブの最後の会話となる。
結局、その直後の戦いで先生は死んでしまったらしい。らしいというのは、オリーブは攻撃を受けて気を失っていたこと、先生の遺体が跡形もなく消え去っていたことが原因だ。
冒険者たちに助けられ、一命を取り留めたオリーブは一晩中泣き腫らしていた。
*
先生には多くのことを教わった。
魔法はもちろんのこと、隠密行動の基本から生きるために必要な知識まで様々だ。
オリーブは、先生の意志を継ごうと思った。
だからこそ数々の壁を越えて観測者になったのだ。
「私は……私は正しいことをしているのでしょうか? 先生……」
ここまで自分は、ひたすら突っ走ってきた。
しかし、最近は……世界から魔物がいなくなってからはすっかりと、違ってきてしまった気がする。
魔物が存在するときは、勇者を死地に送ることおも厭わずにやっていたし、ニンゲンと魔族が戦い始めたとき、二人の神様が提案してきた案も平和のためと承諾した。
神話じゃ、魔族とニンゲンが戦い始めてから観測者が空に上ったかのように書かれているが、実際は違う。
観測者は、はるか昔から世界を見守っていた。
しかし、世界を創造した神があまりにも頼りなかったために下剋上をしただけだ。
今、神はどこかに拘束されていると聞く。
神話に出てくるニンゲンと魔族、それぞれの神様についてもそうだ。
「はぁ早く終わらないかな……」
こんな気持ちはこりごりだと感じながら、オリーブは空を見上げた。




