第七十四話 オリーブの魔法
「なんで……何でまだ立ち上がれる? さっさと楽になりなさいよ!」
余裕の笑みを浮かべているだけで、彼の体は見るからにボロボロだった。
それでも、彼は戦うことをやめようとしない。
「くそっ!」
さらに針を装填して一気に放った。
彼の前に巨大な木の盾が形成されて、彼の体を守る。
かすかだが、治癒魔法を使ったとき独特の緑色の光が漏れていた。
「オリーブさん、いくらやったところで主は負けません! 主は、そういう人です!」
「彼が負けないなんて信じてるのね。でも、それがまちがいだって教えてあげる!」
「あなたのそれが、単なるおごりだと私の主が証明します!」
小さな妖精は、まったく引く気配を見せず、自身の主が絶対だと信じきっているようだ。
確かにこれまでの戦いを考えればそうであろうが、ここからは違う。彼が異常な魔力を保有しているということも事実だが、そのうち治癒魔法は使用できなくなるし、それ以前にそれでどうにもならないような攻撃をしてしまえばこちらが勝ったも同然だ。
オリーブは、あえてセイヤが完全に治癒が完了するのを待ちながら次の攻撃の準備をする。
植物を操作して、足元に雑草をはやす。
背後に向こうが見えない程度にまで茂みが成長すると、向こうから見えない場所に魔方陣が描かれた羊皮紙を置いた。
「母なる大地よ。我に力を……森林結晶、起」
こそっと小さな声で呪文を唱えてセイヤの方を見る。
「どうしましたか? かかってこないようですが?」
「あら、そうしてほしいならすぐにでもしてあげるけどね……私が勝つんだからいつ攻撃しても同じでしょ?」
「随分と言ってくれますね」
「それほどでもないわ」
この自然を操る魔法は、これまでの魔法を参考するということもなく、オリーブが独自に編み出したものだ。
魔力の制御方法などの関係で通常魔法に比べると発動までにタイムラグが発生してしまうのが弱点なのだが、それを補うのがこのフィールドである。
ここには、あらかじめある程度のトラップが仕掛けられていて、オリーブ自身が身を隠すことで
オリーブが使う魔法には四つの段階がある。
まず、発動の準備をする“起”、実際に魔法を行使している状態の“動”、いつでも使えるようになっている“待”そして、魔法を終息させる“解”と起動待解の四つで同時に動の状態にできるのは二つまで、待の状態ならば、五つまでというような制約がある。
四つの中でも“起”の段階に時間がかかるのが最大のネックとなっていて、発動までにタイムラグがある最大の原因となっている。
「雑技呪縛、動……でも、何にもやらなかったらこっちが負けるかもしれないしね……行こうかしら」
呪文を聞こえないように呟いた後、少し大きめの動作をして、あたかも無歌唱で魔法を発動させているようにあらかじめ用意していた魔法を発動させる。
周りに生えている木の枝が一斉に伸びてアリスに迫って行った。
今までとは違って、自分へと向けられた攻撃に対応出来ていない様子のアリスは、あっさりと捕まった。
木の枝できつく縛られて、身動きが出来なくなったアリスの方へ向けてゆっくりと歩み寄る。
彼女のすぐ目の前まで来たら、余裕の笑みを浮かべて彼女を見下ろした。
「あなたはしばらくおとなしくてなさい。そうすれば、私があなたの愛しの主をいたぶってあげるわ」
枝によって地面に押さえつけられた妖精は、首を上げてこちらを見ながらぐっと唇をかんでいた。
よほど悔しい思いをしているのだろうと、表情から感じ取れる。
「なかなかいい顔ね……」
この枝には、捕まえたものの力を封じ込める力も備わっている。
こうなれば彼女は、力を使うことはできないはずだ。
「さてと……かくれちゃったのね」
形を失って崩れていく盾の向こうにセイヤの姿はなかった。
「まぁいいわ……森林結晶、待」
起の状態を脱した魔法を待に移して、オリーブはセイヤの姿を探し始めた。




