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魔王の兄は旅をする  作者: 白波
第五章 森の中央
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第七十話 森の中の誠哉

 心を静めてあたりを観察する。

 幸か不幸か、相手から仕掛けてくる気配はなく、誠哉はこの空間をじっくりと観察することができた。


 と言っても、オリーブがいつ仕掛けてくるかわからないので警戒を解くことはないのだが……


 見る限り、この森は迷宮のそれとは違い、背の低い茂みとあまり高くない木というどこかの童話に出てくるような感じだ。


「来ませんね」

「だな……すぐに仕掛けてきても大して不思議じゃないんだけど……」


 そもそもオリーブの目的が良くわからない。

 冷静に考えてみれば、彼女は話が魔物退治から大きくそれて魔王と勇者の戦いのことになっても自らの依頼が完遂されない可能性について何の文句も言わなかった。


 つまり、彼女の目的はそこではなくて、自分たちの監視だったという可能性が濃くなってくる。


「まったく、本当にめんどくさい」

『めんどくさくて悪いわね。あんなこといった上でこんなんじゃそうかもね……でも、あのままじゃ観測者(わたしたち)の目的が達成されるかどうか怪しいところなのよね。だからこそのこの空間なわけよね。どこぞの娘なんかは、自らの世界を楽園と呼び自分を神だと言い切ったけれど、私はそうじゃない……あぁ歴史いじっちゃったからあの娘のことなんか覚えてないか……まぁ要するにここでおとなしくしてなさいってわけね。残念ながらご都合主義がないせいで私が気まぐれで外に出したり、変なミスでうっかりなんてことは期待しない方がいいわよ。それじゃ、ゆっくりと森で癒されてなさいね。あぁでも、たまに攻撃を仕掛けるかも……それをヒントに私の居場所を見つけて倒したならちょっとは、考えてあげる』


 どこから聞こえてきてたかもわからない彼女の声は、それを最後に途切れた。


 それからは、時々木の陰から鋭い針が飛んできたり、巨大な人喰花に襲われたりと言ったものが中心で彼女がどこにいるかよくわからない。


「主! 後ろ!」

「わかった!」


 頼りになるのは、アリスの持つ能力だ。

 彼女は、妖精特有の能力で森の変化を敏感に感じることができるらしい。


 アリスは感じ取った微妙な変化をすぐに誠哉に伝え、誠哉はそれに従ってオリーブの攻撃をよける。

 そんな攻防が続いていた。


 オリーブが行使するのは巨大な自然の力だ。対して、アリスは自然を察知し、危険を避けることができる。

 こちらが完全に有利とまではいかないが、不利ということはない。


「さて、これからどうするかな……」


 これまでとは違って、まったくと言っていいほど考えが浮かんでこない。

 そうしている間にも最初、いた場所からずいぶんと移動していた。


 この時、誠哉にははっきりとした自覚はなかったが、のちにアリスに聞いた話によると合計の移動距離は、迷宮で一日に歩いていた距離よりも長かったのだという。


 その原因は、観測者たちが作り出す世界では基本的に重力や時間の流れというのが大きく異なるためにいつもほどの疲労を感じにくいということとオリーブが自分たちを惑わすためにそういった感覚を鈍らせる魔法を使っていたことに起因する。


 アリスは、この時点でこのことに気づいていたらしいのだが、彼女は目の前のことに集中させるためか、それとも別の考えがあったのかわからないが、このことを話したのはすべてが終わった後だった。


「アリス。オリーブの居場所はつかめそう?」

「いえ、なかなか難しいですね……いくら高度な魔法でも魔力の中心であるコアがあるはずなんですが……」

「そうか……」


 魔法を行使する際に魔力を結界なり魔方陣へと供給するコアというのは、主に術者自身であることが多いが、鈴菜のように魔女と呼ばれる人種になってくると話が変わってくる。

 彼女の場合、人形をコアとして、魔法を行使することも可能でそれ故に人形で魔方陣を描いて、自分は高みの見物。などということが可能なのだ。


「どうしたもんかな……」


 仮にアリスがコアを見つけたとする。

 それが物であれば破壊すればいいし、術者であるオリーブ自身だったらあまりやりたくないが、彼女が魔法を行使できない程度まで痛めつける必要がある。


「主! 右です!」

「おう!」


 右から飛んできた溶解液をすんでのところでかわし、攻撃が飛んできた方向へとナイフを投げる。

 放たれたナイフは、きれいな放物線を描いて人喰花に命中した。


「まったくもって面倒なことにもともとの力であるナイフにしか頼れないってところがあまりにも痛いかもしれないな」


 ナイフの扱いに関しては、ある程度得意だという自信があった。

 このナイフ自体は、何の変哲もないものなのだが、魔王城を飛び出した直後、護身用にととっさに持ち出したナイフを木に向かって投げて、練習をしたものだ。


 まぁその時間自体は、あまりなくて実践の中でちょっとずつ覚えて行ったというのが事実であるが……


 誠哉は、その後も攻撃をかわしながら日が暮れるまで森の中の探索を続けていた。

 読んでいただきありがとうございます。


 オリーブとの戦いはもう少し続く予定です。


 これからもよろしくお願いします。

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