第六十九話 戦いは森の中で
その後も警備用ロボットや罠を潜り抜けながら何とか奥の方へと進んでいた。
「なんだかんだいって抜けられますね」
「だな。と言っても、この先どうなるかわからないけれど……」
よくわからないが、話なの突破にはたいした苦労は必要なかった。
今度こそダメだと思っても、どういうわけか突破できるのだ。
「だったら、その疑問答えてもいいのよね。いや、暇つぶしにちょうどよさそうな疑問が転がってたから話しかけてみたんだけどね」
周りの風景が激変して、森の中へと変わった。
周りを見回してみるが術者と思われる人間を見つけることはできなかった。
「どうなって……」
「上よ。それもわからないなんてね」
声に従ってみると、オリーブ色の髪をたなびかせ、緑を基調とした服に身を包んだオリーブが“飛んで”いたのだ。
「オリーブ?」
「えぇ。我が名は、観測者オリーブ・ラン・プランター。悪いけど、あなたにはここでおかえり願うわ。それと、あなた自身も気づいていないから行っても意味ないと思うけど、あなたの特殊能力もこの空間では無意味よ。わかりやすく言えば、主人公補正、およびご都合主義の完全なる排除……あなたの世界的にはそんな感じかしらね」
「何を言って……」
「今まで不思議に思わなかったの? 自分にとって、展開が都合よすぎると思ったことはない? 自分が倒せないと思っていた敵を目の前にして、なんとなく考え付いたことであっさり倒せたりしたことは? まぁ要するにそういうことなのよね。全部、自分の力だけで成し遂げられると思っているならとんだお笑いよね」
オリーブは、これまで見せたことのないような醜悪な笑みを浮かべていた。
誠哉は、ゆっくりと彼女の言葉を飲み込んでいった。
ご都合主義や主人公補正の排除……どこぞの漫画で見たような内容だが、実際に先ほどより少しずつではあるが、力を失っているのを理解していた。
「なるほどな……これが主人公補正ってやつか……にしても、オリーブ……君が観測者だなんてな……本当に……」
「めんどくさい。そんなところよね?」
「まぁな」
これまでで一番厄介な敵なのかもしれない。
彼女は、誠哉の弱点を知っているだろうし、誠哉はオリーブの戦い方や弱点をまったくと言っていいほど知らない。
互いの腹の探り合いによる微妙な静けさが二人の間を支配する。
誠哉は、ジッとオリーブの目を見ていた。
「まぁ行かせてもらうわね」
二人の間に流れていた静寂を先に破ったのは、オリーブだった。
「森林樹木形勢!」
ドンという大きな音とともに地面からたくさんの樹木が生えてきて、周りの森をさらに深いものへと変えて行った。
「樹林構築! リンク開始!」
オリーブの姿が透けるように消えて行き、周りの森と同化していく。
とてつもなく強い魔力を感じた。
森全体からオリーブの魔力を感じる。
「この森は、オリーブさん自身の意志……それ次第でどうとでも形が変わるみたいです」
「なるほどな……めんどくさい」
アリスの額には、びっしりと細かい汗が浮いていた。
いつか、このような状態があった気がするが、全く思い出せない。
いや、今はそれを気にしている場合じゃないだろう。
「どうしました? あら、私の力に驚いてるのね。まぁこれにはちょっと、事情があってね。こう見えても観測者の中では序列は低い方なのよ。でも、こうしてあなたを少しながら追いつめている。そもそも戦いには序列なんて、所詮は関係ないということですね。一番とはいわないけど、あえていうわ。私は、最強だとね!」
「こりゃずいぶんなことで……」
今まで自覚していない力を失っているというだけなのに、これほどのものだったとは思えなかった。
主人公補正。そんな言葉は知っていたが、結局は物語の中の話。そう割り切っていたというのに知らず知らずのうちに自分は、その力に頼っていたようだ。
スッとナイフを構えて、力が集まっている場所を探そうとするが、力は漫然と広がっていて、コアと思われる場所を見つけることができなかった。
「……アリス。補助を頼む」
アリスなら感じることができるかもしれない。
そんなことを考える一方で、別の思いもあった。
自分は、思ったよりも仲間と呼んでいる人たちのことを知らないと……
妹であるマアサのことですら、わからないことだらけなのだ。
実際にアリスに頼ってみても彼女がそういったことがどの程度できるか知らない。
「なるほど……結局、一番めんどくさいのはボクってことかな……」
誠哉のつぶやきは誰にも聞かれることなく、虚空へと消えて行った。




