第六十八話 警備装置起動
先ほどの地図を見ながら廊下を歩いていると突如として、照明が赤に切り替わった。
「なんでしょうか……」
「面度な気がしてきた」
これといって何かはっきりしてるわけではないが、とてつもなくいやな予感がした。
「何か、きます」
「みたいだな……」
何かの気配を感じるだけでそれが何かは全く見えないが、とてつもなく危険な香りがするのは確かだ。
はたして、この施設で役に立つかわからないが、とりあえず魔道書とナイフを取り出して臨戦態勢を取った。
数十秒後、目の前に突然、巨大な犬型のロボットが現れた。
「見たことない魔物ですね……」
「これはまた、めんどくさそうだ」
目の前にいるのは侵入者迎撃システムか何かで動いているロボットで間違いないだろう。
そうなると、自分たちが侵入者と認識されてしまったということだろうか。
「主。あれはいったい?」
「面倒なことに防衛装置の一種だろうね。変な入り方をした覚えはないんだけどな……もしかして、さっきのも間違いでそう認識されたのかな?」
「さぁそれは私には何とも……どうします?」
「面倒なことにこれを倒さないことには変わらないんじゃないかな?」
口ではそんなことを言っているが、状況が絶望的だというのははっきりと理解していた。
おそらく、ここが電脳世界でこの場が内部からの管理用の建物だとすればここの警備とか、敵の強さは他の比ではないだろう。
そうなると、これまでの魔物に多少なりとも苦戦してきた誠哉が勝つことはかなり困難だ。
「どうしろっていうんだよ……ったくめんどくさい」
ここで立ち止まっていても仕方ないといわんばかりに魔法を使ってみるが、ロボットはそれを片手ではじいた。
「相当強いですね」
「だな。これはこれは厄介なことで……」
軽く試すつもりだったとはいえ、そこそこの威力があった球をいとも簡単にはじいてしまったのだ。
このことを考えると、弱点を探さないと本格的に倒せなさそうだ。
「炎がダメだったら水はどう?」
あまり慣れていないが水属性の魔法を放ってみる。
しかし、いや当然ながら防水の方もはっきりしているらしくロボットの動きが鈍ることはなかった。
「くそっ!」
雷、氷、光、闇、地、風……物理攻撃やナイフの投擲による攻撃も試みたが、どれもたいした効果を見せなかった。
「ったくめんどくさい!」
全力で巨大な魔方陣を展開させ、雷、水、風の魔法を無理やり混ぜ合わせ、まるで嵐が訪れたかのようにものが舞いちり、横なぐりの雨と雷がロボットを直撃する。
さすがにそれは、耐えられなかったのか、ロボットは空気が抜ける音を響かせながら徐々にその体を寝かしていった。
「……はぁはぁ……まったくもって面倒だな……本当に」
倒れているロボットを一目見た後、誠哉は廊下の奥へ向けて歩みを進める。
この先にいるであろうもっと強大な警備装置に警戒しながら……
*
「やはり、やることなすことケタが違って面白いわ」
アルドンサは、のんびりと泉を眺めながらつぶやいた。
この泉は、下界の好きな場所を映せるという代物で、これを使って誠哉のことを観測していたのだ。
「まぁ極限状態……とまではいきませんが、強い敵を目の前にしたときの急成長……本人はそこまでの自覚がないみたいですけれど魅力的ですね」
「えぇ。そうね。そもそも、最初、この世界に放り込まれたときのままの実力なら、ホワイトドッグにすら勝てないっていうのを知らずにあぁ言う風にふるまっていられるのが最高に面白いわ。このことを知ったら彼、どうなるのかしら」
「さぁどうでしょうね? 私としては変わらない気がしますが」
『森の博学者』の二つ名を持つオリーブ・ラン・プランターもまた、観測者の一人である。
彼女は、泉の風景を見ながらため息をついた。
「ダメね。あなた全然、わかってないわね。彼を見るから少し視点が違うと思うけど?」
「あら、少し高いところからの俯瞰よりもいい視点があるのかしら? これなら、全体を見られるじゃない」
「そう? 私としては、物語は一人の人間の視点に絞ってみた方が面白いと思うけど……まぁいいわ。ちょっとした寄り道なんだし、そろそろ行くわね」
「えぇ。せいぜい頑張りなさい……」
彼女の言葉を背中で受け止めて、オリーブは無数の木の葉となって消えて行った。
部屋に一人残されたアルドンサは、くすくすと笑いながら泉を覗き込んでいた。




