第六十四話 ふとした疑問
結界がある場所の前でしばらく考えても結論が出なかったため、結界に触れてみるが、軽く触れただけのはずなのに1メートルほど体が後方へ飛ばされた。
痛む場所をさすりながら、誠哉の中で一つの疑問が生まれた。
それは、だれでもすぐに思いつきそうな、かなり純粋な疑問だった。
大体、常に結界の中に人を配しておくのはかなり難しい。アリスがいうような村であれば話は別だが、このような場所の場合、中に誰もいなくなった時の保険ぐらいはかけておくはずだ。
じっくりを周りを見て、つづいて捜索の魔法を使う。
「主。どうしますか?」
「ちょっと、待って……何か見つかりそう……」
ぐるっと探ってみて分かったのは、結界の範囲自体はあまり広くないということ。そして、ちょうど反対側に石碑のようなものがあるということだ。
アリスにそのことを話すと石碑に何かあるから向かおうと話になり、今は結界に沿って森の中を歩いているという具合だ。
「石碑か……なんか、謎解きによくありそうな感じだな」
「そうですね……べたといえばべたなような気がしますね。あちらこちらの遺跡でも石碑の文章を読みと説いて進むことがあるみたいですし……」
「なるほどな……このことが片付いたら気ままに旅がしたいな」
誠哉のつぶやきにウソはない。
ここの所……というか、この世界に来てからほとんどの時を迷宮の中で過ごしていて、この世界のことをあまり知らないのだ。
人間とは、学習する生き物で好奇心旺盛だ。
誠哉とてそれは例外ではない。
そもそも、魔王城を飛び出した当時は、世界中をふらふらと歩き回りながら元の世界へ帰る方法を探す気だったのだ。
あまりにも唐突で無計画すぎたがために道に迷った挙句、このような現状があるのは否定できないのだが……
そもそも、この労力が報われるかどうかわからない。
観測者を名乗った少女は、干渉しないといっていたが、その言葉が本当に守られるとは限らない。彼女が言っていたことが本当ならば、自分たちが気づかないうちにこの出来事自体をなかったことにできるはずだ。
「厄介だな……本当に」
「えぇそうですね……向かい側の石碑でどうにかなるといいのですが……」
アリスの顔は深刻そのものだ。
仮に、仮にだ。魔物の発生が迷宮内だけであれば、迷宮に入らないように注意を促すだけで十二分に効果があるのだろう。
しかし、魔物が迷宮の外に出たらその限りではない。
もしも、そのようなことになれば周りの村や町に被害が及ぶ。
「そういえば、迷宮の外ってどんな感じでしたっけ?」
「そういえばそうだな……」
オリーブの一件の際、少しだけ外の村へ行ったことがあるが、そこでの出来事ははっきりとは覚えていなかった。
なんとなく、家が数件だけある小さな村で少しはなれた場所にあるオリーブの家には大量の薬瓶が置いてあった気がする。ただそれだけなのだ。
大体、他にも不可解がことが多すぎた。
誠哉がはっきりとした記憶を持っているのは、基本的に迷宮内での出来事だ。あるとき、唐突に魔王城でのことを思い出してみたりするのだが、次に思い出そうとすると大体わからなくなる。
下手をしたら、自分が持っている魔道書の出所も魔道書を持っていることすらも忘れかけるのだ。
これも、観測者とやらの仕業なのかと考えてみるが、それはそれでおかしいだろう。
そこまで干渉し続けたのなら、今この瞬間に不干渉を貫くのは矛盾しているからだ。
「主? 顔が少し怖いですよ?」
「あぁごめん。なんでもないよ」
そう言って、いつの間にか止まっていた足を動かし始める。
今は、そんなことを考えている場合じゃないと自分に言い聞かせながら……




