第六十三話 真の結界
感覚的には、30分ほどの時間が経っているように感じられた。
しかし、この空間には時計やそれの代わりになるようなものがないため、実際に経過した時間を知ることはできない。
話相手になるかと思って、アリスの名を呼んでみたが、彼女はこの空間にはいないらしく返事はなかった。
結局、一人きりでずっと考えてはいるが、答えは変わらない。
否、変わるわけがない。
「そろそろ答えは出たころかしら?」
消えたときと同じように突然、少女が現れた。
誠哉は、少女の方を見据えながら静かに答えた。
「先の話だけど、面倒かもしれないけれど断らせてもらうよ」
「あら? 正気なの?」
「あぁそうだけど? 何か?」
平然と答えた誠哉を見て少女は、くすくすと笑いだした。
その直後、少女は一瞬で誠哉の目の前に現れた。
「私の誘いを断るなんてね。後悔するわよ?」
「そう? それはまた、めんどくさそうだ。でも、自分の考えていることと違うことをやるのはもっとめんどくさいから、そうさせてもらうだけなんだけど」
「あら、それならこの会話ごとなかったことにしましょうか? それでも違和感がないようにするわ」
「そこまでして、必死に隠すのはちょっと、怪しいっていうのもあるかな? ボクがこのまま進むと君たちにとって都合が悪いだけなんじゃないの?」
誠哉の指摘に少女は、言葉を詰まらせた。
どうやら図星のようだ。
彼女が登場したタイミングと記憶を消すような魔法を仕掛けていた点を踏まえると誠哉が“大切なもの”にたどり着くのを必死に防いでいるのだと思うのは必然だ。
おそらく、表面上には出ていないが、記憶を消すのを失敗して焦っているのだろう。
「まぁいいわ。せいぜい、後悔することね。警告はしたわよ」
それだけ言い残して少女は、霧となって消えて行った。
この場からどうやって帰るのかと不安になったが、気づけば風景は、森の中に戻ってきていた。
*
必死に呼びかけるアリスの声で我に返った誠哉は、空を見上げて太陽の位置から時間を推測してみるが、長時間いたわけではないので、本当に時間が止まっていたかどうかわからなかった。
しかし、観測者ならばそれぐらいはできるのだろうと勝手に納得して、誠哉は歩み始めた。
この時、誠哉は観測者サイドから何かしらの干渉や妨害があるのだろうと考えていた誠哉だったが、彼女が言った“後悔する”という言葉に別の意味があるということを知るのはずっと後のこととなる。
「主。あそこ見てください!」
アリスが興奮した様子で目の前を指差した。
そこには、薄いながらもはっきりとした存在感のある結界が存在していた。
色は透明でパッと見ただけでは気づかなそうなものなのだが、相当強力なものらしく、強い力を感じるのだ。
「この向こうが鈴菜の言っていた……」
「おそらく、そうでしょうね。それにしても、この結界を破るには相当気力がいりそうです」
「だよね。面倒なことにボクが知っている結界じゃないみたいだし……」
そんなことを言いつつも、これに似た結界をどこかで見た気がしていた。
それが、どこだったかということを思い出そうとしても、靄がかかっているような感覚で、どれだけ必死になっても思い出せそうになかった。
「この結界……似てるかも」
誠哉は唐突に衝撃的な言葉をつぶやいた、アリスの方を見た。
「どういうこと?」
アリスは、誠哉の反応の速さに驚きつつもゆっくりと思いだすような口調で語り始める。
「えっと、私たち妖精が住む村というのがあるんです。そこは妖精の村と呼ばれていまして、そこの周りを覆う結界とそっくりだなと……」
「それで? 結界の解除方法とかは?」
誠哉の期待のまなざしに対してアリスは申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「えっと、基本的には結界の解除は不可能です。また、通り抜けに関しても内側からの協力がなければ基本的にできない仕組みだと聞いています」
彼女の言ったことを整理すれば、この結界の破壊および通り抜けは不可能に近いということだ。
それを考慮したうえでも誠哉は、この結界を抜けなければならない。誠哉は、結界の前で座り目をつぶった。
その姿をアリスはただただ静かに見守っていた。




