第六十一話 神話の続きの物語
誠哉は、本来のルートから大きくはずれた道をアリスと二人で進んでいた。
あの戦いのあと、目覚めた誠哉に対して、鈴菜はあることを教えた。
なぜか、そのときに鈴菜の横にいたアンナのマアサは、こっちは何とかするからと背中を押され今に至る。
後にアリスに聞いたかぎりでは、一日ほど気絶していたらしい。
その間になにがあったのか知らないが、マアサとアンナは、なぜか、合意して何かしらのアクションを起こす気でいるようだ。
「それにしても主。本当にあの人の説明を理解できてるんですか? 私は何が何やらチンプンカンプンですけど……」
「大丈夫だよ。道を含めて理解しているつもりだから」
そんなことを言いつつも理解しきれていないところがあるのも事実だ。
あの後、鈴菜が話したのは一般的に知られているあの神話に実は続きがあったというものだ。
鈴菜曰く、最初に話した一般的な部分以外は多くが失われていて、完全な元のものを再現するのは不可能だとのことで、わずかな文献を頼りに推測した文章を見せてくれたのだ。
その内容は、誠哉のみならず、アンナやマアサにとっても衝撃的な内容だった。
*
出来損ないの神様は、あまり焦ってはいませんでした。
なぜなら、神様はすべてがそうなるように仕組んでいたからです。
それに気づいた観測者たちは神様を捕まえて牢屋に閉じ込めてしまいました。
観測者たちの手によって自由を奪われた神様は、今の世界のことがわかりません。
ただ、神様は捕まる直前に大きな迷宮を造り、そこにとても大切なものを隠しました。
それは、使い方次第で世界を安定させることもできるし、世界を滅ぼして新しく造り直すこともできるのです。
どうか、この話を聞いた正しき心を持つものよ。
勇気と希望を持ち、未来への扉を開け放たんと願う。
*
一番最後の二行だけ、文調が違うのが少し気になるが、それは口伝えでバラバラになって伝えられるうちにそうなってしまったのだろうと自分を納得させる。
鈴菜が言うには、この神話に出てきた“大切なもの”というのが今回の魔物の発生にかかわっているのではないかという可能性だ。
彼女の考えでは、迷宮というのは世界の安定を維持している何かしらの媒体を守るための壁で、設置した本人が長らく手を放しているうちに徐々に暴走し始めているのではないかということだ。
魔物の発生は媒体が壊れて、世界が滅ぶ前兆ではないかというのが彼女の推論である。
それが正しければことは一刻の猶予を争う事態なのかもしれない。
「誠哉は、鈴菜に渡された地図を見ながら歩調を速めた」
これは、鈴菜が長年の調査でその媒体があると思われる場所にマーキングが施されている地図だ。
彼女が言うには、最上層の迷宮で唯一この場所だけが強力な結界に阻まれて通行できないのだという。
誠哉が言ったところでどうにかなる問題とも限らないが、行かないよりはましだというのが鈴菜の意見だ。
「どうしましたか主?」
「いや、少し考え事をね。それよりもさ、アリス……アリスはこの世界についてどう思う?」
「どう……とは?」
「深い意味はないよ。ただ、神様ってやつがどういった意図をもってこの世界を造ったかって思ってさ」
「あぁなるほど」
アリスは納得したようにうなづいた。
実際問題、何の考えもなくなんとなく世界を造りました。なんてことはないはずだ。
人間(そうじゃない可能性もあるが)の行動には必ず理由がある。
よくファンタジーなどで魔王が世界を滅ぼそうしていて、勇者が立ち向かうなんて話があるが、勇者だけではなく、魔王にも魔王なりの事情があってしかるべきなのだ。
町の人たちも勇者だから協力するではなく、何かしらの思惑がある方が物語としては面白い。
「私は、そうですね……主のように他の世界を知らないから何とも言えませんが、ここはとてもいいところだと思いますよ。まぁ本当になんとなくなんですけど」
そう言って、アリスはあいまいな笑みを浮かべた。
「そうだな」
アリスの頭を軽くなでた誠哉は、足を止めて空を見上げた。
自分が何を成し遂げようとしているかなど、いまだによくわからない。
しかし、自分の中にある何かが、自分を突き動かした。
誠哉は、再び森の奥へ向けて歩みを進めて行った。




