第六十話 森の人形遣いの実力(後編)
攻撃をよけ続けているうちに誠哉は、魔方陣を構成している人形に目を付けた。
魔方陣の性質上、何か物を使って魔方陣を描いているときにそのものを動かすと多くの場合、魔法自体が無効になるからだ。
「あら、そううまくいくかしら……でも、目の付け所は面白いわね」
「そらどうも……」
そんな短い会話の間にも勢いよく周りに紫電が放たれて、よけるだけで精いっぱいといったところだ。
どちらにしても、こんな状態がいつまでも続けられるとは思えなかった。
だからこその状況打破ための手段だ。
「面白いわ。そこはかとなくそんなことができるのなら、やってみなさい。そうだ。私に一撃当てたらじゃなくて、私の人形を動かすことが出来たらにしましょうか」
「面倒なことに随分な自信だな」
「えぇ。だって、実力の1パーセントも出してないのにあなたは、これほど翻弄されているのよ。これでそこはかとなく自信がないなんていった暁にはとんだお笑いね」
「これで1パーセントってどんなんだよ。めんどくさい」
おそらく、自分を取り巻く紫電は自分が魔力を最大出力で放出しても形成できないだろうと思わせた。
小さな家であるが、その中で巧妙に不規則的、まるで生きた竜のごとく動くそれを再現するのには、人間をやめなければならないのだろう。
否、やめたところでこれほどの魔法が再現できるかと問われればかなり怪しい。
こんな魔法は、魔道書に載っていないため、魔方陣はおろか歌唱すらオリジナルの可能性がある。彼女は、無歌唱でこれほどの魔法を発動させているのだから、これを発動させるためにどんな呪文が必要なのかという肝心な部分が不明瞭だ。
「あらあら……よくよけながらそんな風に思考が脱線できるわね。あなたも実は本気じゃないのかしら……だったら、存分に見せて頂戴。あなたの実力とやらを」
「こう見えて全力なんだけどね……どんなふうに映っているんだか……」
「あら、たいていは高火力な魔法を次々とぶっ放して、煙で包まれたあたりで“やったか?”なんてことを言う人が多いわね」
なんという典型例だろうか。そんなことを言ったら、仲間あたりが“油断するな! 来るぞ!”とか何とかその類のセリフを言いそうだ。
「そうね。たいていは、“まだだ! 奴はやられてなんかいない”かしら。そんなことはどうでもいいとして、あなたは私とのんびり話をしている余裕なんてあるのかしら?」
気づけば、視界を覆うほどの数の人形がその手に雷電を走られているのが見えた。
回避しようと動こうとするが、周りの紫電のせいで動けそうになかった。
せめて、紫電がもう少し弱ければと思ったが、実際問題そんなことを想ったぐらいでそれが弱くなるわけがない。
「そこはかとなく閻魔様によろしくね」
彼女のことばと同時に視界が真っ暗になった。
*
一通り泣き止んで落ち着いた、アンナの耳に入ってきたのは、大きな爆発音だった。
「何? 今の?」
「さっき、一瞬とてつもない魔力を感じたね。これだと、セイヤ君じゃなくてスズナ君の可能性が高いかな」
「スズナさんにそんな魔力があるということですか?」
「あり? 実際に彼女にあっていて感じなかった? 私の見立てじゃ、彼女の魔力は尋常な量じゃないね。それこそ、セイヤ君やマアサ君が二人でかかってきても片手でひねられるぐらいにね」
オリーブが淡々とした口調で告げた事実は、アンナの中でゆっくりと飲み込まれていった。
確かに湖の上を歩いている人形を見た時をすごいと感じた。しかし、冷静に考えてみると人形をからくりを使わないで魔力だけで動かすのなら、並大抵の魔力で成立するはずがない。
「戻らないと!」
アンナは、先ほどまでの泣き顔をどこかへ引っ込めて、鈴菜の別荘へ向けて疾走していった。
「いやいや、元気になったようでよかった。ねぇあなたもそう思わない?」
かけていくアンナの背中を見送りながら、オリーブは虚空へ向けて語りかけていた。




