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魔王の兄は旅をする  作者: 白波
第四章 迷宮の法則
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第五十八話 人形遣いの話

 鈴菜の別荘に残された誠哉とアリスは、無言で外を眺めていた。


 誠哉としては、魔王と勇者が戦うということには、とても複雑な心境だった。


「悩んでいるのね。やっぱりあなたは、そこはかとなく中立ってところかしら?」

「中立か……面倒なことに立場だけで言うと魔王側なんだけどね……」


 鈴菜は紅茶の入っているであろうカップを静かに置いて誠哉の目を見た。

 その目は自分の行動について考えているのか、少し揺らいでいるように見えた。


「私だってあの二人が戦うのが正しいのかわからないわ。まったく自分の行動で悩めるなんて、私もまだまだ人間を名乗ってもいいのかしらね」

「やっぱり、そうなるってわかってて言ったんだ」

「えぇ。さっきの似たようなことを言ってたけ気がするけど、勇者と魔王が戦うっていう神様の考えが絶対ってわけじゃないわ。でも、ある程度風習は守られるべきよ。そこはかとなくこれは、破られるべきではないと思っていたわ。それに、そのうちばれちゃうでしょ? だから、そこはかとなく汚れ役を買ったのよ。私だったら、別段恨まれたところで何にも感じないし」


 鈴菜はため息をついて立ち上がる。


「あなたがうらやましいわ。あなたを見てるとそこはなとなく、ただのニンゲンだったころを思い出すのよ。魔法を学べば向こうに帰る方法が見つかるんじゃないか、魔女になって長生きしているうちに何か糸口があるんじゃないか……そんな風に考えていた……でも、無理だった。どれだけ追求してもそこはなとなく結論に達することができない……そうしているうちにニンゲンだったころの感情も思い出も次々と消えて行って、自分が自分じゃなくなるみたいで怖かった……だから、ニンゲンでいるあなたがうらやましい。どうなっても自分は自分だって言い張れるあなたがうらやましいの」


 彼女がいつの間にか手にしていた水晶は、澄み渡った湖面のように美しかった。


「これで、あなた達を見させてもらっていたの。だから、魂の大樹の出来事もマアサ達とどんなことを話していたかも全部知っている。どうしてかしらね。最初は、魔王の動向を見るだけのつもりだったんだけどついついあなたを見ていたの。これは、謝っておくわ」

「面倒なことに全部知っていたうえでそうしていたっていうことか?」

「えぇ。そこはなとなく正解よ」


 無表情な彼女からは感情を読むことは難しいが、少し後悔しているのではないか? 誠哉はそう感じていた。

 はっきりとした根拠はないが、雰囲気とか話す内容から受けた印象だ。


「それと……私が長々と話した理由……それが、あの子たちのところへあなたを行かせないための足止めだってことにそこはかとなく気づいたころかしら」

「はっ?」

「あら、気づいてなかったの? これはこれは……なかなか滑稽ね。さっさと追いかけたらどう? 下手したら二人して魔王城へ飛んでおっぱじめてるかもしれないわよ」


 目の前で人の悪そうな笑みを浮かべている彼女は、どこかの物語に出てくるような悪い魔女そのものであった。

 彼女は、誠哉の服の襟をつかみ顔をぐっと近づけた。


「さーて、そこはかとなく聞いてみるけどさっきの話はどこまでが正解でどこまでが不正解だったでしょうか? クスクス……わかるわけないわよね。不正解のあなたには、私が人形遣いたるゆえんを見せてあげるわ。わかるでしょう? ただの人形師だったら、いくら魔女だったとしても『森の人形遣い』だなんて二つ名がつくわけもないものね。さーさ、みんな集まって頂戴」


 積まれていた荷物の箱を打ち破るような勢いで大量の人形が飛び出す。

 人形たちは、まるで自分の意志を持っているかのごとく、家の中を飛び回りやがて、鈴菜の周りに集合していった。


「魔法と人形遊びをくっつけるとこんな感じに、人形が意志を持っているように見えるでしょう? まぁ実際には、あなたには見えない魔法の糸で操ってるけどね……さぁさ。始めましょう。私の人形たちの舞踏会を……そして、観測者ですら勝てなかったあなたは、無様に私の前にひざまずくのよ」


 鈴菜は、いっぺんに人形たちを動かしてポーズをとらせ、自身は奥の方でほくそ笑んでいた。

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