第五十四話 とある出来損ないの神様のお話(後編)
宣言通り、10分で戻ってきた鈴菜は、すぐに支度を済ませて本を手に取った。
「さて、話の続きとしましょうか。そこはかとなく誠哉君にぐらいしか伝わらない言い方をすると、プロジェクターを使って360度風景を映しているみたいなものだから、紅茶がのっているその机はそのままよ」
彼女が言い終わる前に世界は歪み風景に変化が訪れ始めた。
「さて、ここまでは史実通りやらせてもらったけれど、ここからは私の研究をもとに構築したものよ。生物の進化と衰退の歴史と言っても過言ではないわね」
先ほどまで小さかった虫は、巨大になって小動物を淘汰する。
空を飛んでいた鳥は、その虫をはるかしのぐほど大きくなり、ドラゴンと呼んでも差支えない大きさとなった。
「さて、生物たちは、神様の“もくろみ通り”に進化していった」
「もくろみ通り?」
「えぇ。私はそう考えてるわ。すべては神様が緻密に仕掛けた罠。だって、この頃の生物の進化は、私の知っている生物学の知識に当てはめるとかなり不自然だもの」
生物学的に不自然というのは、どういったことなのだろうか?
実際に巨大な生物と言えば、地球にも恐竜が実在していたのだから、何ら不自然ではないと思えて仕方なかった。
「まぁ落ち着いて聞きなさい」
「もしかして、面倒なことに心が読まれているのか?」
「えぇ。ちょっとね」
どうやら、冬川鈴菜という人物は、かなり抜け目がないらしい。というか、いつそんな魔法をかけたのだろうか?
「さっきの10分でちょろっとね。なんだか、あなたを見てると懐かしくて……それで、なにを考えてるか知りたくなったのよ」
「やめてくれません。なんか、面倒なことになっても困るので」
「別に変なこと考えていても私は気にしないわ。だって、魔女だもの」
「気にしてくれないと逆に困る」
鈴菜は、無表情のままほんの次のページを開いた。
景色は再び、めまぐるしく変化をしはじめ、視点は上空へ移る。
そこからは、森が切り開かれ集落がところどころに点在しているのが見えた。
「私の推測では、恐らくここからが神様の誤算ね」
「いや、面倒なことに魔物についての説明を聞いていないのは気のせいか?」
「さて、なぜかと聞かれれば簡単よ。化石などの情報をもとに調べた結果、魔物の数は常に一定になるように調整されているような印象を受けたわ。でも、人類は違う。どんどん増えて行って、森を切り開き、徐々にその居住地を拡大していった」
「おい、人の話を聞け」
そんなことをしている間にもまるで、人類史を早送りで見ているように(実際そうなのだが)ドンドンと集落ができていく。
いくつかの集落がつながり、街となる。そして、町同士をつなぐ街道ができて、徐々に王国を形成していった。
「ついでに言わせてもらうと、世界の中心とされる場所に迷宮が構築されたのは、大体このころね。すぐ下の地面が、さっきまでいた私の別荘よ」
先ほどまで集落が点在していた場所は、徐々に森に押されるように後退して行って、足元には巨大な森がひろがっていく。
「まぁこの後は、現在の形に発展していくんだけど、私の説を用いたうえでも、説明できないことがいくつかある」
「説明できないこと? 面倒なことにそんなことなさそうだけど?」
鈴菜は、一つため息をつくと、本をぱたんと閉じた。
すると、風景は図書館に戻る。
「まず、妖精の存在。起源というべきかしら……それが、まったくわからないの。史実通りに行っても、私の説の通り行っても高度な知能を有することができるのは人間と魔族だけのはず……だったら、妖精のルーツはどこなのか……これが一つ目」
彼女が言い終わると同時に机の中央に火がともしてあるキャンドルが出現した。
「二つ目は、転移装置や移動装置と呼ばれている上、または下の階層へ移動できる装置……これは、現代の魔法では説明できないわ。ついでに言わせてもらうと、日本の科学に当てはめたところで結果は同じ……明らかにこの世界において、この装置はオーバーテクノロジーなの。他にも細かく言えばたくさんあるんだけど、主なのだとこの二つね」
机の上にさらに二つのキャンドルが出現する。
鈴菜は、席を立ってマアサの方へと歩いて行った。
「それにしても、さっきの二つとは違って、これは私個人の疑問なんだけど……どうやって、勇者を自分サイドにまるめこんだの? さすがに『稀代の魔王』なんて呼ばれているだけあって、相当策士なんでしょうね。マアサ」
鈴菜の一言は、その場を凍りつかせるにはあまりにも十分すぎるものだった。




