第五十三話 とある出来損ないの神様のお話(中編)
鈴菜が分厚い本を開くと、景色は図書館からひたすら広い大地へと変わった。
ただ広いというわけではない。空は雲一つない快晴で地面はただただ茶色の地面が地平線まで広がっているだけだ。
「これは、いくつかの文献をもとに神話で示されている最初の状態を再現した物よ」
「本当に何もありませんわね」
「はい。木はおろか草の一本もあるようには見えません」
アンナとアリスはしきりに何かないのかと探しているが、どこを見てもあるのは地面と空だけだ。
誠哉もまた、周りを見るが何もないどころか生物の気配すら全く感じられなかった。
死の大地。
そんな単語が誠哉の頭の中をよぎった。
「さて、これじゃつまらないと考えた神様は一日で海と山を造りました」
景色が急激に変化し始めた。
何もなかったところに山が出現し、その分だけ別の場所の標高が低くなっていく。
そこに大量の雨が降り、徐々に徐々に海を形成していった。
「あっあれは原子植物ですね。このようにみられるというのは面白いですね」
オリーブの言う通り、山や平原には少しずつ草木が生えはじめ、大地は緑に染まっていく。
ものの数分で川ができ、平原ができて、森ができた。
海岸には、これまたものすごい速度で砂浜や断崖ができて行った。
「すごい」
「これが世界の創造よ。同時に迷宮の形成の下準備でもある。その時、神様はそんなこと意識してなかったでしょうけどね」
どうやら、ひと段落ついたようでいったん動きが止まった。
「こう見ると、今の森とは全然違いますね」
「えぇ。ついでに言えば、植物の発生は偶然のようね。つまり、この時点からそこはかとなく神様が意図してないことが起きているのよ」
「なるほど、面倒なことに神はそれを利用したってところか?」
「正解。では、続きと行きましょう」
鈴菜は、本の次のページを開いた。
「これでもつまらない神様は、これまた一日で世界を階層構造に変えました」
再びめまぐるしく世界が動き始めた。
足元の大地は、次々と割れていき、あるものは上へあるものは下へと下がって行って徐々に階層構造を形成していく。
気づけば、自分たちが今現在るのであろう一番上の層ははるか上空、見えないほどの高さとなっていき、下の方もまた、見えなくなってしまった。
「せっかくだから、そこはかとなく上の方に移動しましょうか」
鈴菜が指をパチンと鳴らすと、景色は一気に最上層まで移り変わった。
「さて、これが階層構造ができた段階ね。まぁ見てわかる通り、この時点では迷宮なんてものは存在しないし、各層ごとのつながりも皆無ね」
「意外だな。すっかり、階層は最初からつながってると思ってた」
「えぇ。あなた的に言うと、面倒なことに階層はつながっていなくて、階層の存在を認知した知的生命体が移動装置を造りだしたってところかしら……まぁそれに関しては、もっと後に語らせてもらうわ」
最上層には、当然ながら町はなく、ただただ広大な森林が広がっていた。
また、見た限りではあるが下の層よりも山は比較的高いようだ。
「そして、ここがのちに第二層から第一層の岩盤を突き抜けて生えている大木が来るところね。実のところ、あの木があれほど成長できたのは、どういうわけか第一層の岩盤に穴が開いていたからという説が一般的よ。こういったものは、各地で見られていて、これがのちに人類が下層の存在を見つけるきっかけになったみたいね」
「なるほど」
「さて、次に行きましょうか。ここまで来てもつまらない神様は、生物を造りました」
鈴菜がパチンと指を鳴らす。
すると、今度は風景こそ変わらなかったが、あちらこちらに小さな変化が見られた。
「あれって、鳥じゃない?」
「おや、こちらの花には昆虫が来てるみたいだね」
空を鳥が飛び、植物の間を昆虫が飛んでいた。
よく見れば、小動物の姿も見える。
「これが、生物が誕生した世界。ここから、世界は最初の神様の意図しない方向へと進んでいくの。そこはかとなく疲れたし、少しやることがあるから休憩しましょうか」
鈴菜が本を閉じた。
その瞬間に景色は一気に変わり、誠哉たちは最初の図書館へと戻っていた。
「アップルティーよ。ごめんなさいね。お茶を飲みながらとか言いながら出すのを忘れてたわ。お砂糖は、机の真ん中あたりに置いてあるから」
目の前に紅茶が入ったカップが出現し、机の中央に白い容器が現れた。
「10分で戻るわ」
それだけ言うと、鈴菜は煙のように消えて行ってしまった。
読んでいただきありがとうございます。
思っていたよりも長くなってしまいましたので、前中後編で分けさせていただきます。
これからもよろしくお願いします。




