第五十二話 とある出来損ないの神様のお話(前編)
結局、誠哉たちも研究用の荷物の整理を手伝うことになった。
誠哉が大きめの荷物を持ち上げると、一枚の紙が隙間からひらりと舞って、地面へと吸い寄せられるように落下を始めた。
「ん? なにこれ?」
それを拾ったアンナは、描いてあることを呼んで驚愕の顔を浮かべた。
何が出たのだろうか? 気になった誠哉は、荷物を近くに置くために周りを見回した。。
「ねぇこれって」
「面白いものでも出たみたいね? ってこれは……」
「あら、偶然にしては面白いものが出たわね」
荷物を置いて、再びアンナの方を見るといつの間にか、オリーブと鈴菜もその資料を覗き込んでいて、自分とふてくされているマアサとそれを慰めているアリスを除いた全員がそれを見ている構図となった。
「ちょっと、それ見せてくれる?」
「えぇ。別にいいわ」
誠哉は、アンナからそれを受け取ると、そこに書かれている文章を読み始めた。
*
その昔、世界はひたすら平坦で何もありませんでした。
それがつまらないと考えた神様は、山を造り、海を造りました。
それでもつまらなかった神様は、世界を階層状に変えました。
それでも、つまらなかった神様は、生物を造りました。
生物は、神様の意志とは関係なく勝手に進化していきました。
進化を続けた生物は、神様の意に反して魔物となり、世界中で暴れまわりました。
困った神様は、魔物が倒せるような高い知能を持った生物を造りました。
最初は、協力していたものたちは、魔物がいなくなると対立し、分立していきました。
片方は、人間と呼ばれ、もう片方は魔族と呼ばれました。
二つの種族はとても仲が悪く、常に戦っていました。
そして、いつの間にか神よりも強い力を持った人間と魔族が現れて、それぞれの神様となりました。
仲の良かった二人の神様は、これ以上大きな戦いが起きないようにするためにはどうしたらいいか考えました。
そして、ある日考え付いたのです。
それぞれの代表が戦うことによって世界を安定に導こうと、そうすれば代表以外が戦うことはないのだからと考えたのです。
こうして、人間の神様は勇者を造りました。
対して、魔族の神様は魔王を造りました。
それからというもの、それぞれの称号を受け継ぐ者たちが代々争うようになり、二人の神様の目的は達成されたのでした。
でも、それが面白くない人たちもいました。
その人たちは、神様になるために天に昇りました。
その人たちは、観測者となりました。
この世界は、出来損ないの神様が造りだした出来損ないの世界なのです。
---王宮図書館 迷宮創造伝説より抜粋
*
「まさか、こんなところで写本とはいえ迷宮創造伝説が見られるとは思わなかったわ」
「えぇ。研究用に抜粋したものだけどね」
鈴菜は、あまり関心がないようで、さっさとほかの荷物を片付け始めた。
これは、あとから聞いた話しなのだが、王宮図書館の蔵書はめったにみれるものではないらしい。神話などの場合、おとぎ話などで聞くことは多いらしいのだが、抜粋して写本したものだとしても原本の文章などそうそうみれるものではないのだという。
「どうやって手に入れたんですか?」
「ちょっとしたコネよ」
「どんなコネですか」
「ヒミツ」
彼女が言うコネといういうのは、マアサではないかという考えが一瞬、頭をよぎるが、そのことについてはいったん考えないでおいた方がいいだろう。
「ところで、面倒なことにこんな資料を使ってどんな研究をしてたんだ?」
「まんま迷宮の成り立ちについてよ。そこはかとなく弟子は考えが違ってたみたいで、研究結果を全部持っていかれたけど」
「持っていかれたって、気にしていないんですか?」
「えぇ。植物学者さんはニンゲンだから、わからないかしら。研究なんて、自分のためではなく、人のためにするもの。たとえ、持っていかれたとしても気にしないわ」
まるっきり無表情のまま気にしないなどと言えるのは、彼女が魔女だからであろうか?
普通だったら、研究結果を持っていかれたらそんなことを言っていられないと思うのだが……
「まっ興味があるなら、この話に出ている最初の神様についての結果を覚えている限りで話してもいいわよ」
「随分と面倒そうだけど、本当にいいのか?」
「えぇ。そこはかとなくめんどくさそうだけどいいわ。ちょうどいい暇つぶしになるし」
彼女がそういった瞬間、突然誠哉たちは図書館のような場所へ移動した。
「そこはかとなくお茶でも飲みながらゆっくりと聞いてちょうだい」
鈴菜は、分厚い本を片手にゆったりといすに腰掛けていた。




