第五十一話 人間たちのお茶会
鈴菜の家の中は極端に家具が少ないという印象を受けた。
理由は追及するまでもなく彼女が魔女だからだろう。
部屋はそこまで大きくなく、見る限りはワンルームなのだが、キッチンを始めとしたものがないということがこの空間をより違和感のあるものへとしているのかもしれない。
「お茶でも飲んで待ってて頂戴。そこはかとなくやることがあるから」
鈴菜が指をパチンと鳴らすと、その場にカップに入った紅茶が出現した。
「アップルティーよ。ついでにクッキーもつけてあげるわ。30分ぐらいで戻ると思うけど、下手に物を触らないでそこはかとなく大変なことになるから気を付けて頂戴」
それだけ言うと、彼女は扉を開けて外へと出て行ってしまった。
残された誠哉たちは、紅茶を飲みながらのお茶会を始めた。
「にしても、面倒なことに迷宮がこんな構造になっていたなんてな」
「そうね。あの道を外れたら帰れないって本気で信じてたから、ちょっと意外かも」
「確かにそうだな。面倒なことにボクもそのことを信じ切っていたところがあるからな」
その中において、唯一このことで驚いていないのはマアサぐらいであろう。
おそらく、彼女のことだから何かしらの理由でそのことを知っていたのだろう。
「マアサ」
「なんですの? お兄様」
「鈴菜と知り合いだったみたいだけど、どんな関係だ?」
誠哉の質問に対し、マアサはため息で返した。
最初にあった時の反応もそうだが、あまり良い関係ということではないのだろう。
「……まぁ腐れ縁というやつですわ。昔、いろいろとありましたのよ」
結局、帰ってきた答えはその一言であった。
その後、みんなでお茶会をしているうちにそんなことは徐々に気にならなくなっていった。
*
お茶会をしているうちに時間はあっという間に過ぎて、たくさんの荷物を抱えた鈴菜が帰ってきた。
「おや、すごい荷物ですね」
「えぇ。魔法を使って、軽くしてるけどそれでもね……疲れたわ」
「その顔で疲れたといいますのね」
荷物を下ろした鈴菜は、汗ひとつかかずに無表情で疲れたなどと言っているのだからマアサの反応はある意味当然かもしれない。
「で? マアサ。そこはかとなく聞くけど、私のできそこないの弟子は元気にしてる?」
いつの間にか出現していたカップを手に取った鈴菜は、立ったまま紅茶に口を付けた。
「えぇぴんぴんしてますわ。憎たらしいぐらいに」
「そう。ならいいけど」
カチャという音を立てて、カップをテーブルの上に置くと、今度は荷物を開け始めた。
中からは、魔法で使うと思われる怪しげな道具が次々と出てきていて、誠哉たちは興味津々といった様子でそれを覗き込んだ。
「これまた、たいそうな荷物ですね」
「えぇ。しばらくここにいることにしたから研究用の道具を持ってきたの。そこはかとなく待たせてごめんなさいね。そこはかとなくこの時間にやるって決めてたから」
お客がいるにもかかわらずそのような振る舞いをするのは、彼女が魔女であるからだろうか? それとも、単純に常識が欠如しているのだろうか? それは、はっきり言って定かではない。
理由はいたって単純で誠哉が彼女以外の魔女にあったことがないからである。
「にしても、マアサ。よくあの弟子に付き合うわね」
「仕事で必要だからですわ。そうでなければあまり会いたくありませんわね」
「まだ続けてるのね」
「えぇ。相変わらずトップを張っているようですわ」
マアサと鈴菜の弟子の関係は相当悪いのだろうか。
まったく、気にしていない様子の鈴菜に対し、マアサはかなりイラついているのが見て取れた。
先ほどまで騒がしいぐらいにお茶会を楽しんでいたアンナたちはすっかりと静まり返っていた。
「出来たらでいいけど、あの子のこと許してくれるかしら。おそらく、彼女だってそこはかとなく悪意を持って接しているわけじゃないと思うわ」
「あれのどこに悪意がないといえとおっしゃいますの? 彼女の行動は少し許しがたいところがありますわ」
「あの子には、あの子なりのこだわりと目標があるのよ。許して頂戴」
弟子のことを許そうとしないマアサを見て、鈴菜は落胆の色を浮かべた。
その後も、なんとなく重い雰囲気の中、マアサがカップを置く音だけがやけに大きく響いた。




