第四十九話 森の人形遣い
誠哉たちが、水をくんでいると、泉の向こう側に人影が見えた。
その人物は、誠哉たちに気づいたようで、“水の上”を歩いてこちらへ寄ってきた。
「水上歩行ですか。興味深いですね」
「そうですね。意外と貴重な魔法ですし」
そんな状況を見ても、どこか落ち着いているオリーブとアリスに対してマアサとアンナは同様の色を隠せないでいた。
「えっ? 水上歩行なんて、そんな魔法はもう失われたって聞いたけど……まだ、伝承者がいるっていうことなの? でも、なんでこんなところに?」
「えっでも、そうじゃない可能性も……そもそも、彼女がこんな場所にいるわけ……」
少しぎこちない動きながら、水上を歩いている人物は、池の中央まで来ると突然沈んでしまった。
「えっ? どういうこと!? とっとにかく助けないと!」
真っ先に剣を横に放り、飛び込もうとしたアンナの肩を誰かの手がつかんだ。
「ちょっと、止めないでよ! あの人浮かんでこないじゃない!」
必死になっているアンナを諭すように話している人物……本当にいつからいたか定かではないが、不思議と目を引く真っ黒で長い髪と上から下まで真っ白な服装があまりにも印象的な少女は、鉄仮面のように無表情のままアンナの肩をつかんでいた。
「そこはかとなく大変そうだけど、別に問題ないわ」
「そんなこと言ったって! あの人は……」
まるで、すべてがわかっているかのように少女は、余裕ともいえる笑みを浮かべていた。
それを見たアンナは、何かを感じたのか、振り返って少女の方を見た。
「あら、なにか気づいたのね」
どこか人を馬鹿にしているような口調だったが、そのことについて初対面の人にとやかく言うつもりはなかったため、気にしないことにする。
すると、誠哉の横にいたマアサが少女の方に進み出た。
「気づかないわけもありませんわ。少々動きがぎこちなかったですし、今頃水上歩行が使えるニンゲンが出るなどあり得ませんわ。それに関しては、もう少し研究の余地がありそうですわね」
「えぇそうなのよ。にしても、そこはかとなく気紛れで迷宮に来てみればなかなか面白いやつにあったわ」
「そうですわね。森の人形遣いさん? それにしても、本当になんでこのような森へ?」
森の人形遣いと呼ばれた少女は、あくまで無表情のままマアサの質問に淡々とした口調で答えた。
「別に、少し来たかったからってだけね。そこはかとなく魔物を捕まえてペットにしたいとかは考えてないわ」
「考えているのですわね。いくら、貴方と言えども、それは……」
「文句ある? まぁあるのは分かってるけどね、そこはかとなく疲れるけれどわざわざ家から出てきているのよ。それをそこはかとなく邪魔する気なのかしら?」
「まぁこちらとしては、そういうのは困りますわ」
マアサに注意され、少女の顔にわずかながら落胆の色が浮かんだ。
だが、マアサが言っていることは間違っていないので、何とも慰めがたい雰囲気があった。
「それにしても、そこはかとなく面白いわね。妖精に勇者にあなたとパッと見普通の人間のあなた。どうやったら、こんな豪華キャストで迷宮探索ができるのかしら」
「面倒なことに偶然の成り行きだよ」
「なるほど、そこはかとなく面白い答え、ありがたく頂戴するわ。さすがは、日本人ね。そこはかとなく懐かしい気がする答えをいただけたわ」
森の人形遣いと呼ばれている少女は、くすくすと口に手を当てて笑い始めた。
「日本人ってどうして?」
記憶をたどる限り、誠哉は基本的に異世界人としか名乗っていない。
つまり、日本という地名を知っているのはほんのわずかな人間だけのはずなのだ。
「私も日本人だから、この世界にひきこまれた迷い人なのよ。あなたもそうなんでしょ? そんなにおいがする」
そう言った少女の存在感は大きく、周りは音が消えてしまったかのように静まり返っていた。
「そうだよ。ボクは確かに日本人だ」
「やっぱり、そうなのね」
これが、沖村誠也と森の人形遣いを名乗る少女との出会いであった。




