第四十八話 森の泉
右を見ても森、左を見ても森。時々広間がある以外はあまり変わり映えしない景色だ。
「それにしても、目印になるようなものの一つや二つぐらいないのかな。これじゃ、面倒なことに迷子になってるのかすらわからない」
「って言われても、こればかりは……というか、それだからこそ迷宮なんでしょ?」
「それは、そうかもしれないけど」
いくらこれが迷宮だからと納得しようにも風景が変わらないという事実に対して飽きるわけがない。
魂の大樹の一件以来、別に魔物と遭遇するわけでもなく、いい意味でも悪い意味でも平和だ。
「平和が一番ですわ」
「お前が言うか」
思わず突っ込んでしまったところにアンナが首をかしげながら割り込んできた。
「別にマアサが言ってもおかしいことじゃないと思うけど?」
「いや、まぁそうだけど……」
まさか、彼女は魔王です。なんて言うわけにもいかないので汗をだらだら流しながら一生懸命ごまかそうとしていた。
「あぁそういえば! 前に聞いたことがあるんですけど、この先に泉があるらしいですよ! ほら、森に来てからほとんど水なんて見てないじゃないですか! どうですか? みんなで! ねっ!」
マアサの正体を知っているアリスがうまいこと話題をすり替えてくれた。
誠哉は、ぐっと親指を立てる。
「そうね。そろそろ水もなくなりそうだし、行ってみようか」
「そうだな、寄り道は面倒だけど、水は大切だからな」
オリーブは、無言だったが、異論はなさそうだ。
アリスが先導して誠哉、アンナ、オリーブ、マアサの順に着いて行く。
少し道から、外れてしまうが、仕方ないだろう。
「アリス、水がある場所までどのくらいだ?」
「えっと、この感じだと後数分ぐらいで着くと思います」
「そうか、にしても泉の場所って誰から聞いたんだ?」
あまり、アリスが自分のところから離れたことはない。
そう考えると、一緒に探索しているメンバーの中ということになりそうだが、マアサはともかくほかの二人はそこまで迷宮のことを知らないはずだ。
「えっ? あぁフーリですよ。前にも会ってると思いますけど……」
「フーリ?」
どこかで会ったような気もするが、誰のことかわからなかった。
誠哉が首をかしげていると、アリスもまた、首をかしげていた。
「おかしいですね……主とフーリがあったことあるような気がしていたのですが……よく考えたら、その状況が良くわからないので思い過ごしかもしれませんね」
「それで? フーリっていうのは?」
「私の友達ですよ。どちらかと言えば、悪友かもしれませんが……」
アリスはどこか遠くを見るような目をしていた。
今まであまり深く考えたことはなかったが、アリスはなぜ、妖精の村と呼ばれている場所から出て、このような場所にいるのだろうか?
そんな疑問が誠哉の中に湧き上がってきた。
妖精の村というのが存在するというのを誰から聞いたが覚えていないが、いつからか知識としてあったのだ。
絶滅の危機にある妖精が寄り添って暮らしている場所。というぐらいの知識であるから、アリスから聞いた情報ではないのだろう。
「となると、誰から?」
「どうしましたか主?」
「いや、面倒だから気にしないでいいよ」
なんだかよくわからないが、あまりこの話題に触れない方がいい気がしたので、先ほどの疑問は忘れることにした。
「あっ泉に到着したみたいです」
アリスが指差した方を見ると、そこには迷宮の中にしては珍しく、たくさんの水を蓄えた泉があった。 その水は、とてもきれいに透き通っていて、のぞいてみると魚が見えた。
「へーこんな場所もあったんだな」
「はい。やはり、森を形成するうえで水は重要な資源ですからね。迷宮の場合は大体、地下水なんですけれど時々、こうやって泉などがあるそうです。中でも、この泉は大きい方だと聞きました」
「なるほど、確かに私が見た中では一番大きい気がしますね」
オリーブは、泉の横の水生植物を観察しながら、答えていた。
どうやら、彼女なりに楽しんでいるようだ。
やがて、なぜか少し遅れてきたマアサを加えて泉のそばでしばし休憩を取ることになるのだった。




