第四十七話 誠哉の家族(後編)
月日は経過し、誠哉は高校生。一葉は中学生となっていた。
孤児院の皆とは家族と呼べる関係になっていたのだが、孤児院は財政難とシスターが高齢になったという二つの問題により閉鎖となり、二人とも、養子としてある夫婦に引き取られ、孤児院の子供たちはどことなく疎遠となっていた。
コンピュータに興味を持った妹は、自分でゲームを作ると言い出し、部屋にこもりがちになっていた。
誠哉たちを引き取った夫婦は、いつもニコニコしていて優しかった。
母は、いつも人形を作っていて、子供会などでやっているというよく人形劇を見せてくれた。
父は、普通のサラリーマンであったが、できる限り早く帰ってきてくれて休日にはいつも家族で出かけようといってくれた。
「お兄ちゃん。もうすぐできるから、絶対最初にプレイしてよね」
「おう」
一葉は、そんなことを言いながらずっと部屋にこもっている。
単純にそれは、口実で部屋でこもりたいだけではないかと疑いたくなるが、扉を開けて突入する気にもなれなかったのでそれに関しては気にしないでおこう。
「一葉ちゃん。今日も出てきそうにないの?」
「はい。面倒なことに部屋から出る気は全くないみたいで……」
「そう」
そう言って母は目を伏せる。
「ただ、もうすぐゲームができるって言っていたので、それが完成したら出てきてくれるかもしれません」
「そうね。そうかもしれないわね」
そんな会話を交わして家を出る。
しかし、誠哉は妹のゲームが完成する瞬間に立ち会えうことができなかった。
その日を境に妹は未完成のゲームを残してどこかへ消えてしまい、誠哉自身、その捜索中にこちらの世界に召喚されてしまったのだから……
*
「そんなことがあったのですわね」
「まぁな」
責任を感じているのだろうか?
マアサの表情はどこか暗かった。
「あまり気にするな……と言いたいところだが、一つだけ召喚に関して聞きたいことがある」
「はい。なんでしょうか?」
「面倒なことにこっちに来てから召喚前の記憶を失ってきている気がするんだ。それに関しては何か知らないか?」
「いえ、召喚された人間はみな、一応に前の世界の記憶を持っていたと聞いていますので……」
「そうか」
そこまで来て、マアサは何かに気づいたようで、誠哉の肩をつかんだ。
「お兄様! まさか、前の世界の記憶が!」
「だから言っただろ。だんだんと抜け落ちてきている。今となっちゃ、孤児院のみんなの顔も一葉の顔でさえ思い出せない。さっき話したのは、向こうでのボクの記憶のすべてだといってもあながち間違いじゃないよ。面倒なことに記憶が抜け落ちるのにたいした法則性もなさそうだから、下手したら自分でも気づかないうちに家族の名前すら思い出せなくなるかもな」
「お兄様……」
誠哉は、弱弱しく笑いながら空を見上げる。
その姿はまるで、誠哉という存在が足元から崩れていくようで、残った記憶にすがっているように見えた。
そして、小さくうなづくとゆっくりと立ち上がった。
「でもな、だからと言ってボクはボクだ。面倒なことに人間っていうのは本質は変わらないから何があっても変わるつもりはないよ。たとえ、向こうの世界の記憶がすべて消えてしまったとしても、そうでなかったとしても、ボクは今、この場所で今を生きる。ただ、それだけだ」
「そうですわね。過去にはとらわれることなく生きる……大切なことなのかもしれませんわね」
ちょうど、その時向こうの方にアンナたちが見えた。
真っ先にアリスが誠哉の胸に飛び込んできて、続いてアンナとオリーブが目の前までやってきた。
「ごめんね。待たせちゃって」
「別にいいよ。面倒なことにすごい暇だったけどな」
「あーまぁ思ったよりも時間がかかってるのは事実だからね」
先ほどまでの雰囲気はどこかへ消えてしまい。数分後には、二人ともいつも通りに戻っていた。
「さて、さっさと出発しますわよ」
「そうだな」
「はい」
「まぁ待たせたのは事実だから文句は言えないね」
こうして、再び誠哉たちは迷宮のさらなる奥を目指して歩き出した。




