第四十六話 誠哉の家族(前編)
「暇ですわね」
「面倒なことにその通りだな」
今、この場にいるのは誠哉とマアサの二人だけだ。
マアサがしきりに腕にくっつていくるのは気にしないとして、アンナとアリス、オリーブの帰りを待っているのだ。
事の始まりは、約2時間前。オリーブ、アンナ、アリスは少し行きたい場所があるから待っていてくれと言って、どこかへ行ってしまったのだ。
その結果、二人きりで過ごすこととなってしまった。
マアサと二人きりという状況に若干警戒したが、あからさまに何かを仕掛けてくることはなかった。
「お兄様」
「なんだ?」
「差支えなければ、向こうの世界のお兄様の話を聞きてもよろしいですの?」
「どうしたんだ? 突然」
これまで、それなりにいっしょにいたが、彼女が誠哉の過去について尋ねてきたのは初めてだ。
もしかしたら、突然こちらへ呼んでしまった後ろめたさとかそんなことがあるのかもしれない。
「いえ、少し気になったので」
そう言ってマアサは少し目を伏せた。
誠哉としては、気になることは多々あったが、少しずつ過去のことを話し始めた。
*
そもそも、沖村誠哉という人間にあまり両親の記憶はない。
幼いころに捨てられて、偶然通りかかった孤児院のシスターさんに拾ってもらったのだ。その時、一緒にいた実の妹である一葉に至っては、両親のことすら覚えていないかったらしい。
「ほら、みんな今日から一緒に生活する新しい友達の誠哉君と一葉ちゃんよ! みんな仲良くしてね」
教会に併設されているその孤児院には、誠哉たちを含めて9人の子供がいて、最初こそどことなく距離があったが、子供というのは不思議なものでいつの間にかみんなと仲良くなっていた。
「誠哉! チャンバラやろうぜ!」
「いいよ。今日もボクが勝たせてもらうけどね」
「何を! 俺は新技を考え付いたんだ! 今日こそおまえを倒してやる!」
机の上に立ってシーツをマント代わりにして新聞紙をまるめた刀を構えているのは神成隼人。施設においてある本を読んで以来、中世の騎士にあこがれている少年だ。
「やるなら早くやろう。ボクとしては、チャンバラも楽しいけれどこの本の続きも楽しみでたまらないんだ」
片手で持っていた本をパタンと閉じると、机のわきにたけかけてあった新聞をまるめた棒を手に取った。
「おう。そう来なくっちゃな」
二人がにらみ合いを始めた中、他の子供たちもだんだんと周りに集まってきた。
「お兄ちゃん! 絶対に負けちゃいやだからね。負けたらお兄ちゃんのごはん全部もらうんだから!」
そんな理不尽な要求を飛ばしているのは、妹の一葉で
「二人とも頑張るのだー負けた方には私が用意したとっても素敵な罰ゲームを用意してあるのだー」
のんびりとした口調とは裏腹に少しばかり黒い笑みを浮かべながら一葉の後ろに立っているのは、暗いところが極端に嫌いな少女、楠桜。
これまでの経験上、彼女が思いつく罰ゲームというのはろくでもない場合が非常に多い。
これまで、たいてい罰ゲームを受けるのが隼人だったので、あまり誠哉自身が巻き込まれたことがないが、10歩ごとに戦隊ヒーロー(ピンク)の変身ポーズをとりながら町内一周などという意味不明な罰ゲームをやれと言われた暁には、本気で逃げ出したくなる気がする。
「私としては、チャンバラになんて興味ないけど、大切に育てているコスモスちゃんが倒されないように見張らせてもらうね」
植物が大好きで孤児院にある観葉植物に水をやるのが習慣となっている二本柳美菜子は、これから始まろうとする戦いに気が気でない様子だった。
それもそのはず、どういうわけかチャンバラをするたびに彼女が大切に育てている植物のうちどれか一つが何かしらの被害を受けるのだ。
「ねぇ空」
「なに海?」
「どっちが勝つと思う?」
「さぁ? 誠哉君じゃないの?」
そんな会話をしているのは、双子の姉妹である二川美空とその妹、美海。
この施設には、あと二人女の子がいるのだが、残念ながら親戚が会いに来たとかでこの場にはいない。
「さーてと、はじめるか」
「そっちからどうぞ」
隼人が大きく一歩踏み出し、二人の戦いの火ぶたが切って落とされた。
読んでいただきありがとうございます。
この話に関しては、少し長めなので前後編に分けさせていただきます。
これからもよろしくお願いします。




