第四十二話 種さがし(前編)
誠哉が作戦をアリスに伝えると、彼女は、慌てふためいた様子で羽をパタパタとせわしく動かした。
まぁ突拍子もないことを言っているので仕方ないといえば仕方ないかもしれない。
「あの……本当に私で良いんですか?」
「もちろん。面倒ながら、ボクは人間だからさ……あの場所まで飛んでいくことはできないわけだろ? だから、背中の羽で飛べるし、小柄で小さな穴にも入れるアリスが適任だと思っただけ」
誠哉がアリスに話した内容というのはいたって簡単なものだった。
魔法を使ってアリスと誠哉の視界を共有しながら、アリスがマーキングした場所を調べるといったものだ。
そもそも、怪しい場所が一番上の足場にある長老の家から背丈二つ分ほど上に位置しているため、とてもじゃないが誠哉自身がたどりつけないのだ。
かつて、無自覚階層で木の上に上るということをやってのけているのだが、先ほどのこともあり、これ以上の魔力の消費はあまりよろしくない。
そこでひかくてき魔力の消費が少ない此方の方法へと切り替えたのだ。
「……はぁわかりましたよ。あそこは、私たち妖精でなければいけないような場所ですし、それ以上に他でもない主からの頼みですから……そうと決まったら、早くやりましょう」
「ありがとう。じゃっ面倒だけど、さっさと準備を始めるか」
改めてマーキングされた個所を見つめる。
いったい、あそこに何があるのだろうか? ただわかるのは、あまり穏やかなものではないというだけだ。
「主?」
「うん? あっ準備しないとね」
「そうですよ。急がないと世界が大変なんですから!」
「わかってるよ!」
大木に背を向けていったん根元まで降りていく。
結界を越えて第二層全体を覆わんとする虹色の空のことを気にかけながら、誠哉は急いで準備を進めて行った。
*
約30分ほどかけて魔方陣を描き、道具も一式そろえることができた。
「さて、やるぞ」
「はい」
魔方陣が光を帯びはじめ、あたり一面が光に包まれる。
「まぶしい!」
「こりゃすごいね。やっぱり、セイヤ君の実力は底知れないよ」
感心したようにうなづいているオリーブの姿を視界の端に捉えながら誠哉はゆっくりと目をつむった。
うまくいっていれば、次に目を開けたときには違う風景が見えるはずだ。
「わぁこれはこれは……」
驚きの色が隠せていないアリスの声を聴きながら、誠哉はゆっくりと目を開けた。
「どうやら、成功したみたいだね」
「ですね。それにしても、なんというか違和感満載というか、気持ちが悪いというか……」
今、二人は左目がアリスの視界、右目が誠哉の視界となっているため、かなり見づらいといえば見づらかった。
そのせいか、アリスが不快そうな表情を浮かべているが、こればかりは仕方ない。
「とりあえず、アリス。しるしの場所まで飛んでくれるか?」
「わかってますよ。それじゃ、行きますので」
アリスが地面を飛び立つと同時に右目をつぶって左目に意識を集中する。
自分の体が動いていないにもかかわらず、視界に映る風景だけが上がっていくというのは、カメラの映像をモニターで見ている感覚に近かった。
ものの十分でしるしの前にたどり着くと、アリスに幹の周りをぐるりと回ってみるように指示を出す。
「あれか……」
ちょうど、視界が木の後ろまで行ったとき、明らかに自然にできたものではない穴があいているのが視界に飛び込んできた。
アリスもそこの違和感に気づいたらしく、ゆっくりとそこへ近づいて行った。
「アリス、中をのぞけるか?」
『えっと、はい。やってみます』
アリスとは、直接脳波を使って会話をしているため、彼女の声が直接脳内に響いてきている。
そんなことはともかくとして、アリスを通じて誠哉の視界に入ってきたのは、一見何にもなさそうな空間であった。
『ここにはなにもなさそうですよ?』
「いや、そんなはずは……」
ない。と言い切ろうとした誠哉の中で一つの可能性が生まれていた。
「なるほど……そういうことか……」
誠哉は、大木を見上げて不敵な笑みを浮かべていた。




