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魔王の兄は旅をする  作者: 白波
第三章 第二層
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第三十九話 勝利の条件

 前方へ大きく飛んで大袈裟に切りつけようとするが、彼は風に舞う木の葉のようにふわりとよけてしまう。


「くそっこのごみが!」


 アドリーヌはこれでもかと光の塊をセイヤに向けて投げつける。

 なのに彼は、それらを受けてもまた、ふらりと立ち上がる。


「どうなってる! どうして! どうして!」


 彼は無言でこちらに左手を向ける。

 彼の手には、真っ黒な塊があり、それをこちらに向けていた。


「どうして、こんな虫けらにこんな力が!」


 自分の楽園へいざなえば簡単に形成を逆転できるはずなのにいくら力を込めても楽園に行きつけない。

 まるで、ここが自分の楽園だと体が勘違いしているようだ。


 否、ここは間違いなくあの楽園と同じ場所に位置する。


 ふと、そんな可能性が頭の中をよぎっていく。


「そんなことあるわけがない……あそこは私の空間。私の世界! 私の思い通りにならないわけがない!」

「どうだろうな? 面倒だが、どんな世界だろうが、何でもかんでも自分の思い通りになるとは限らないと教えてあげるよ」

「何を! 私は神だ! あちらではただのニンゲンに過ぎない私でも、ここでは、楽園では神なのだ! 異論なんて絶対に認めたい! 認めたくない!」


 私の言葉が漆黒の空間に木霊していく。

 間違いなくここは私の世界だ。この広がり、この感覚は確実に私の世界だ。


「光を操るお前の弱点はその逆である闇だ」

「なんで……」

「お前の行動を見ていれば簡単だ。あの楽園は光にあふれていたし、技はすべて光を使うものだった。これだけの情報があれば、お前の弱点が闇であるという可能性には簡単にたどり着ける。まっ大体の人間は、それに気づく前に消え去って行ったんだろうが、ボクは残念ながら非常にしぶといんでね」


 向こうを見てみれば、セイヤは余裕の笑みを浮かべていた。

 悔しい気持ちが心の中を支配し、少しずつ冷静さを欠いていくのが自分でもわかるほどだ。


「くそっどうしてくれる! 私の! 私のための世界を崩壊させる気か! そんなことは許さない! ここは、この楽園は私が私のために作り上げた世界だ! 誰にも壊させたりしない!」

「黙れ! このひきこもりが! んな、面倒なことにこだわっていないで外の世界で過ごせばいいだろ! いろいろな人と出会って、別れて、喧嘩して、楽しんで、悲しんで、苦しんで……それらを多く経験できた人間が一番強いんだろ? そんなことを放棄して、自分の殻に閉じこもっている奴は、とんでもなく弱いに決まってるだろうが!」


 セイヤの左手から放たれた真っ黒な球がこちらへ向かってきているが、なぜか避けることができなかった。

 体を動かそうと必死になるが、手足が石になってしまったと思うほどいうことを聞かなくなっていた。


「消え去るのはお前の方だー!」


 真っ黒な闇の塊はすべてを呑み込むように楽園を……アドリーヌを吸収していった。




 *




 世界を覆い尽くしていた闇が徐々に消えていき、周りに広がるのは戦う前と同じ森の迷宮の風景だ。


「無事だったのね。よかった」


 そんなことを言いながら、フーリが抱き着いてきて誠哉の胸に顔をうずめる。


「フーリ……」


 時間差を置いてドサッという音とともに楽園の断罪者を名乗る少女の体が落下してきた。


「くそ……こんな……ことで、私の楽園が……」

「まずは、どんなけ面倒でもあんなところにこだわらないで、人と関わりながら人との接し方を考え直せ」

「無理よ。私みたいな化け物がただのニンゲンと暮らせるわけないもの……自分の世界がほしかった。自分を恐れるニンゲンがいない世界に行きたかった……ただ、ただそれだけだったのに……私がどこで間違えたっていうのよ! 私は間違ってなんていない! あいつらが! 私のことを化け物なんて呼ぶあいつらが悪いんだ! それにさ……勝ったつもりでいるかもしれないけど、あの虹色の空って私の力のいったんなのよ。あれを止めることはできない。私をここで殺したところで私のシナリオ通りに世界の崩壊が始まるのは目に見えてるんだけどね……」


 彼女はものすごく皮肉めいた笑みを浮かべていた。

 力比べでは負けたが、作戦では勝利した。そんな風に思っているのだろう。


「なるほど……つまり、めんどくさいけどあれを止めればこちらの完封勝利ってことか……」

「ふふっできるものなら……やって、みなさ……い……よ……」


 少女は、皮肉に満ちた笑みを顔に張り付けたまま意識を失った。

 誠哉は少しずつ首を上に向けて空を覆う虹色の光を見つめていた。

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