第三十八話 断罪者のおごり
楽園の空を飛んでいる少女は、こちらを下すぐらい簡単だと思っているのか、余裕綽々といった様子だ。
誠哉は、急いで足元に小さな魔方陣を描き始めた。
「何をする気なのか知らないけど、とりあえず邪魔させてもらうのだー光銃なのだー」
何かを察したのか、少女の周りに出現した銃から発射された弾丸は、周りの大地を容赦なくえぐっていく。
誠哉は、ぎりぎりの水準で結界を維持しつつ魔方陣をかき続ける。
魔方陣の線には一つ一つ意味がある。
それを間違えるわけにはいかない。しかし、敵の攻撃に結界が耐えられているうちに書き上げなければならない。
誠哉の額を一筋の汗が流れて行く。
「あらら、魔方陣をかきながらそれほどやれるとは思ったよりもすごいのだーというわけでプレゼントをあげちゃうのだー」
少女の周りの銃はすべて消え失せて光の塊となる。
それらは、一気に少女の手元に集まって大きな光源となって行った。
「すべてを消し炭に……光源弾!」
これまでにないほどの威力を持った光の塊は、容赦なく誠哉の方へと飛ばされてきていた。
「これで終わりなのだー!」
先ほどのとは比べ物にはならないぐらいの爆風と光があたりを包み込んでいる。
少女は、にんまりと笑みを浮かべてその光景を眺めていた。
*
これほどの攻撃だ。
相手は助かったりしないだろう。
楽園の断罪者ことマリーズ・アドリーヌ・エルプは、一仕事終えたようなつもりで男に背を向けた。
「なかなか楽しませてくれてありがとう。セイヤだったかな? まぁゴミクズの名前なんてどうでもいいけど……どちらにしてもそうなちゃったらあまりににも無様ね」
先ほどの攻撃であいた穴がふさがり、再び緑の平原へと戻っていく中でも、セイヤは、ピクリとも動かない。
その姿を見たアドリーヌは、大声で笑い始めた。
「あっはっはっはっはっはっ! こんなことで壊れちゃうなんて、やっぱりニンゲンなんて玩具にしては、物足りなさ過ぎるじゃない! まったく、ニンゲンは最高の玩具だってほざいてた人形遣いに文句言わなくちゃ……バカみたいな口調で話してて損した気分。せめて、もうちょっと……ん?」
突然、何かに足をつかまれた。
驚いて足元を見ると、死んだはずのセイヤが自分の足をつかんでいたのだ。
「なるほど……それが……お前の本性……ってことだな。めんどくさい……」
「離れろ!」
思い切り足を振り払い、距離を取る。
セイヤはゆっくりと立ち上がり、こちらに向けてにやりと笑みを浮かべた。
「なぜ、なぜまだ立ってられる! あれほどの攻撃を受けてなぜ?」
「……面倒なことになりそうだから、お前が知る必要なないと思うよ? 断罪者さん」
あんなちっぽけな人間などが自分の攻撃を耐えられるわけがない。
詰めが甘かったか……
「思い上がるなよクズが! 私の力の前にひれ伏せ! 光隕石連打!」
空から多数の隕石が降り注ぐ。
こうなってくると楽園の修復が大変なのだが、確実に処理しておかねばここの秘密を知られることになりかねない。
そうなれば、楽園の崩壊すら招く危険が出てくる。
実に50発もの隕石がクレーターを造り、大地が灰色になってもなお、セイヤはこちらをまっすぐと見つめて立っていた。
「無駄だ。ボクにはお前の攻撃は通じない」
「何?」
「暗黒時空……借り物の力だけど、これを使ってお前を倒す!」
「暗黒時空? 何を言って……」
言葉を出し尽くす前に足元に大きな異変が起きていることに気づいた。
さっきまで緑色だった地面は、真っ黒に変わっていて、空や周りの風景も徐々に黒へと変わり始めていた。
「これは……まさか!」
「あの世界では、君は神でその力は絶対だ。つまり、裏を返せばあの世界から引きづり出してしまえばあれほどの力があるというわけでもないし、技の名からして光の力を使うようだから、すべての光を吸収するこの空間では、君の技はすべて無効となるってところかな? さて、どうする?」
ボロボロになりながらもしっかりと大地に足をつけているセイヤを見て、アドリーヌは血が出るほど唇をかんでいた。
「よくもコケにしてくれたな。絶対に許さない!」
「それはボクも同感だ」
余裕だといわんばかりの笑みを浮かべるセイヤを見てアドリーヌは強い不快感を覚えていた。
「そんなこと言って、命乞いしても知らないわよ!」
アドリーヌは、服の袖に隠してある短刀を手に持ってセイヤの方へ向けて大きく踏み込んだ。




