第三十七話 少女の楽園
結界の中はおろか、外に広がっていた森林まで焼け野原になっているとなると、彼女の攻撃はあれほど強固だった結界すら破ってしまったのはだろうか?
いや、それはあり得ない。
いくらなんでも、自分があの結界よりも強いものを張れるとは到底思えない。
つまり、これにはまだまだ裏があるということなのだろう。
周りの状況を把握するために空を見上げてみれば、空を覆っていた岩盤が亡くなっていたことに気づいた。
「どういうことだ? 何が起きている……」
元々、妖精の村上空には岩盤はないのだが、それでも村の外には迷宮の上層が乗っている岩盤が見えていたはずなのだが……
「小光弾なのだーよそ見しないでこちらを見ててほしいのだー」
楽園の断罪者は、ニコニコと満面の笑みで青い空を背に飛んでいた。
「ん? 青い空?」
ここにきて、さらにおかしなことに気づいた。
先ほど……確か、光爆を受ける前ぐらいまでは空は虹色だったはずだ。
「まさか……」
誠哉の中で一つの可能性が組み上がりはじめていた。
「ったく、面倒だな……」
「何かわかったの?」
「まぁな。ボクの推測通りだとすると、彼女は結構厄介かもね」
こちらを見つめている少女の目には好奇の色が浮かんでいるように見えた。
誠哉は、彼女をまっすぐと見つめていつの間にか懐に戻ってきていたナイフを少女の方へ向けた。
「ここは、ボクたちがいるのとはまた、別の世界である。大体そんなところかな?」
「大当たりーとはいかないけど、正解なのだー」
少女は満面の笑みで拍手をする。
「面倒だな……帰る方法は君が握っているといったところか……」
「それは、半分正解なのだー」
先ほどよりも高く飛び立った少女が両手を広げると、その直下を中心に灰色だった大地が一気に緑の草原へと変わって行った。
空には虹がかかり、白い雲も流れ始めていた。
「ようこそ下界の者ども……私の楽園へ」
緑が広がっている間、無表情だった少女がにっこりと笑った。
「もちろん、歓迎するのだーただし、生きて帰れると思うのは間違いなのだー」
「なるほど……良くわからないが、非常に面倒だということだけはわかったな」
「そーいう認識なのかー面白いのだー」
断罪者より向けられた好戦的な笑みは何かしらの戦慄を感じさせた。
「空を走る雷よ! 我に力を!」
少しばかり後ろへ下がった誠哉は、遠距離の雷魔法を放つ。
雷撃は少女に向けて直進していったのだが、彼女の目の前ではじかれるように各方向へと分散した。
「この世界の神様は私なのだー神は普通に攻撃したところで無傷なのだー」
「なるほど……つくづくめんどくさいな」
横にいるフーリを見てみるが、彼女は石になったように動いていなかった。
つまり、相手は自分との一対一での戦闘を望んでいるとみて間違いないだろう。
「さて、私の本気を引き出せるか挑戦してみるのだーでも、普通に考えれば下等な人間なんて、それに値することはないのだー」
「つくづく言ってくれるな。だったら、お前が下等だという人種がどれほど強いか見せてあげるよ」
「楽しみなのだー」
魔力を両腕に集中させて照準を彼女に合わせる。
「行くよ。偉大なる五大元素、炎よ! 禁忌なる爆炎よ、すべてを焼き尽くせ!」
放たれた炎は彼女だけではなく、周りの草原も炎に包まれていく。
だが、少女はおろか、草原すら焼ける気配がなく、炎の勢いは一気に衰えて行った。
「これでもダメか……」
「そーなのだー私は倒せないといっているはずなのだー」
「そうとは限らないでしょ!」
誠哉は、勢いをつけてナイフを投げた。
物理攻撃ならと思っての行動だったが、金属同士がぶつかったような高い音とともに遠くへはじかれてしまった。
「どうすればいい……」
誠哉は、できる限り心を落ち着かせながら今の状況を打開する方法を探っていた。




