第三十六話 楽園の断罪者
村の一番外周にある結界は、いつも通りであることがわかった。
つまり、長老たちは、中の防護ばかりに目がいっているのかもしれない。
ここには、ヒントはなさそうだと踏んで帰ろうとしたそのときである。
「よーせいと人間かー面白い組み合わせなのだー」
「誰?」
声のした方を見てみれば、10歳ぐらいの女の子が立っていた。
誠哉が懐の中を探っていると、いつもそこに入っているはずのナイフがないことに気が付いた。
「えっ?」
「あーあなたのナイフならここなのだー」
いつの間にか、女の子の手にはセイヤ愛用のナイフが握られていて、もう片方の手には白い光の塊があった。
「なっ!?」
「驚いている暇なんてないのだーということで光銃発射なのだー」
白い光は、たちまち銃の形となり、見た目と反してマシンガンのように雨あられと銃弾が打ち出される。
とっさの判断でフーリが張った結界により、直撃は免れたが、自分の周りを残して地面がえぐれているのを見て背筋が凍りついた。
フーリの結界がなく、あれの直撃を受けていたらただでは済まなかっただろう。
「おー防ぎ切ったのかーすごいすごーいなのだー!」
手をぱちぱちと叩きながら、こちらに向けている視線は明らかに小ばかにしているものだった。
誠哉は懸命に気持ちを静めようとしていた。
このまま相手の挑発に乗って、冷静さを失えばただでない勝算がゼロになってしまうからだ。
「ったく面倒だな。というか、君は誰?」
「名乗るほどでもないのだー強いて言うなら、『楽園の断罪者』なんて通り名で呼ばれているのだー」
「楽園の断罪者?」
「というようにまだまだ無駄口をたたけるのかー」
気づけば、少女の姿は誠哉のすぐ横にあり、彼女の左手は白い光を帯びていた。
「光剣なのだー」
真横から飛んできた攻撃をすんでのところでよけ、横へ転がって先ほどの攻撃であいた穴に入った。
「大丈夫?」
「面倒だけど、ぴんぴんしてるよ。まだまだ戦えるぐらいには……にしても、あの移動なんなんだ? 面倒なことに瞬間移動しているみたいだけど」
「みたいね。人間がいくら背伸びしたしたところで使えるはずないんだけど……」
フーリの言うことはもっともだ。
誠哉を始めとする一部例外を除き人間が保有できる魔力というのは限界があるし、使える魔法の種類というのもある程度限られてくる。瞬間移動ともなると、魔族……その中でも力が強い魔王クラスの力を持つ者でなければ、魔力はおろか体も耐えられない。
「なるほど……下手をしたら、種族が人間じゃありませんでしたってのもあり得そうだな。めんどくさい」
「何を言うのだー私は人間なのだーそんなこと言うならお仕置きなのだー光爆」
光の塊は、丸い形を保ったまま誠哉の方に落下してきた。
これまでの攻撃のことを考えて、懐から取り出した魔道書を見ながら二重に結界を張る。
結界に光の塊が当たると、大きな破裂音とともにあたりは真っ白な光に包まれた。
上を見ると外側の結界にヒビが入り、今にも壊れそうになっているのが確認できた。
誠哉は、大事を取ってもう一つ結界を張る。
その時、誠哉の耳に何かが響いてきた。
「歌?」
少しキーが高く、天に昇っていくような美しい歌声は前に魂の大樹に操られていたアリスが歌っていたものとそっくりだった。
周りに誰かいるのだろうかと思い、周りを見てみるが結界の外は光が強すぎてフーリの姿すら見ることができない。
二つ目の結界にヒビが入った頃に光が徐々に弱まり始めた。
やがて、白い光が消えて視界が戻ってくると、誠哉は信じられない光景を目撃した。
攻撃の威力が先ほどの比ではなかったのだ。
どうやら、フーリは直撃ではなかったうえに彼女が張っていた結界のおかげで無事だったようだが、少女の周りと自分たちの周り以外はあたり一面焼け野原となっていた。
「なんだ……これ」
ここが先ほどまで、青々とした木々が生い茂っていた森とは思えなかった。
村は無事なのだろうか? そんなことを考える間もなく数々の弾が飛んできた。
「他の心配をしている暇があるのなら、自分の心配をするのだーおそばせながら、さっきのは小光弾なのだー」
弾が飛んできた方向を見ると不敵な笑みを浮かべている『楽園の断罪者』が空に浮かんでいるのが見えた。




