第三十五話 外の結界、中の結界
村の方に近づくと、フーリの言ったとおり何重にも結界が張ってあるらしく、それらが集中しているせいか、紫色の壁が目の前にそびえているように見える。
目を凝らしてみても、壁の向こうは見えないため、ここを抜けるのは並大抵のことではないだろう。
ためしに触れようとしてみるが、紫の壁に手が届く前に硬い何かにあたる感覚がする。
「なるほど……本当に分厚く張ってあるみたいだな」
「言ったでしょ? それよりも離れたら? 何を考えてるのか知らないけど、さらに外周に結界を張る気みたいだから」
「えっ?」
いうのが早いか、それとも衝撃がくるのが早かっただろうか?
誠哉は、後ろに跳ね飛ばされて思い切りしりもちをついてしまった。こんな調子で次々と結界を張られようものなら、村の様子を見ることはおろか、中に入るのはまず不可能だろう。
「にしても、妖精はそう簡単に死んだりしないんじゃないのか? これじゃ、面倒なことに村に入れそうにないし」
「まぁ過剰防衛ってのは言えてるわね。村の長老たちは警戒してるのよ。だって、これまでにない現象ですもの。この場にいたら、危なそうだから、さっさと離れましょう」
できれば、この場から離れずにいたかったのだが、先ほどと同じようなことがないとは限らない。
誠哉は、もう一度村の方を見た後、渋々その場から離れて行った。
「待ってろよ。マアサ、オリーブ、アリス。絶対にそっちに行くからな」
誠哉のつぶやいた声は、静かな森に飲み込まれていった。
*
さて、昨晩寝ていたあたりまで戻ると、フーリが持っていた地図をもとに村の状況を推測し始めた。
妖精の村は、大木を中心として、丸い形をしている。広さは野球場のグラウンドほどで、その中に約200人の妖精が暮らしている。
大木には、長老を始めとした村の上役の家があり、緊急時にはそこが避難所となる。
おそらく、結界は大木の幹の周りを中心として、渦のように形成されている可能性が高いのだという。
「にしても、面倒なことに逃げ遅れたら、村から弾き飛ばされるんじゃないか?」
「それに関しては大丈夫よ。村の建物は避けるように張られるから、逃げ遅れたら自宅にいれば問題ないわ。だから、本格的に避難所まで行くという要請も珍しいといえば珍しいわね。だって、普通に考えれば、村の外周の結界だけで防衛力は十分だもの」
「みたいだな。あれ見る限り……」
本当に何を考えているのか理解できない。
あれほどの結界を張り巡らしながら、中にも結界があるというのだから、村に入れたとしても、移動するのは非常に難しいだろう。
あごに手を当てて思慮する誠哉の顔をフーリがいかにも面白そうに見つめていた。
「どうした?」
「あら、みんなと再会する方法なんて、複雑に考える必要ないでしょ?」
そう言って、彼女は虹色の空を指差した。
「とっとと、この事件を解決しちゃえばいいのよ。村の中に問題があるとも限らないし、いっそのこと村の外から様子を見るのもありかな。まぁともかく、この近くでなるべく背が高い気を探しましょう。話はそれからよ」
フーリは誠哉の肩からふわりと飛び立って、村とは反対方向へ移動し始める。
彼女の背中を追いかける誠哉は、ふと虹色の空を見上げる。
起きたときと違って、空の青い部分が少なくなっているところを見ると、いまだにそれが大きくなり続けているのだと理解できた。
「なんだ? あれ?」
虹色と虹色の間の青い部分を黒い何かが飛んでいた。
「何か見えたの? というか、よく見てられるわね。私なんて目がちかちかして、直視できないのに……」
フーリも誠哉が見ていたほうを見るころには、その影は再び虹色の中に消えていて、青だった部分が虹色に食べられているかのように縮小しているところだった。
誠哉は、小さくうなづいてから視線を小さな妖精に戻した。
「面倒だけど、行くか」
「えぇ。ちょっと、急ぎましょうか」
「だな」
フーリと誠哉は、村の一番外側にある普段から張ってある結界の方に向けて走り出した。




