第三十四話 異変の始まり
朝。誠哉が目覚めると、視線に入ってきたのは北極などの寒い地域で見られるオーロラを思わせるような虹色の空だった。
妖精の村独特の現象だろうか? いや、そんなことはありえない。これほどまでに空が輝いていたら周りが気付かないはずがない。
「おやおや、遅いお目覚めのようね。セイヤ」
アンナたちはまだ、帰ってきていないらしい。
確か、彼女たちを待っている間、フーリと話している途中で急に眠気に襲われて、その後のことはよく覚えていない。おそらく、その場で眠ってしまったのだろう。
いまだにボーとする頭を無理やり回転させて、この状況を理解しようと努める。
「……そんなことよりもあの空はどういうことだ?」
「あれねー私もよくわからないというかなんというか……」
そんな状態なのに彼女はこんなところでゆっくりしていていいものなのか? という疑問が浮かんできたが、それに関してはとりあえず考えないでおいた。
そうしている間にも虹色の光は拡大していて、大木を中心として結界の外に向けて拡大して行っているのが確認できた。
「いやー不思議だねー産まれてから初めて見たよ。まっ長老たちなら、何かしら知ってそうだけど……」
「じゃあ面倒だけど、長老のところに行ってみる?」
「そうしたいのはやまやまなんだけど、村に入れないのよね。これが……」
「えっ?」
村の方を見ながら頭の後ろをかいている妖精は、誠哉と同じくめんどくさいという感情が思いきり前面に出していた。
彼女とは気が合うかもな。などと思いつつ誠哉は状況の整理を始めた。
「簡単に言えば、村で何か異変が起きていて、長老たちが何か知っていそうだが、肝心の村に入ることはできない……つまり、面倒なことに自分たちで推論立ててやっていくしかないと?」
「まっ解決は向こうに任せてこっちはこっちで勝手にやってるのもありだけど、それじゃ気分悪いから、首を突っ込ませてもらっちゃおうか」
今のところ、アンナやオリーブが帰ってくる気配はないので、村の状況を把握することはできない。
「面倒だけど、そうするか……どのあたりまでなら近づけそうかな?」
「そうね……せいぜい、村が見えるか見えないかぐらいまでは何とか……ただ、結界が二重三重とどんどん張られてるみたいだから、下手したら中の様子を知ることはできないかも」
「なるほど……結構、面倒なことになってるな」
「えぇ。村の長老たちはうろたえて防備ばかりに気を使っているみたいだから」
自分の村がピンチだというのにフーリは至って落ち着いていた。
妖精というのは非常に長生きする種族でよっぽどのことがない限り、死なないのだという。つまり、村人たちは基本的に無事と考えて間違いないだろう。
だが、人間は違う。アンナやオリーブはそれなりに力を持っているのだろうが、死ぬときはあっさりと死んでしまうだろう。それにいくら死ぬことがない妖精とは言えど、アリスのことも心配だ。つまりは、彼女たちの安否が気になって仕方ないのだ。
「焦ったところで結果が悪化するだけだからやめなさい。まぁみんな無事だから、大丈夫に決まってるじゃない」
誠哉の様子を見て心配したらしいフーリが励ましの言葉をかける。
誠哉は、ゆっくりと立ち上がり、村の方角を見た。
「そうだな……行こう。村へ」
「そう来なくっちゃ! ささ、さっさと案内しちゃうから着いてきなよ」
フーリの案内に従って、誠哉は森の奥へ向けて歩いて行った。
この時、少し油断していたのかもしれない。すでに誠哉は敵の手中にあろうとは微塵にも思っていなかったのだ。




