第三十三話 月明かりの下で
村の中に入ると、多くの妖精たちに出迎えられ、今は村はずれにテントを張っている。
何ともまぁ滑稽な話だが、誠哉たちでは大きすぎて客ようにと用意されていた家に入れなかったのだ。ここで、用意する前に気付けなかったのかという部分は省かせてもらう。
ともかく、そこまではよかったのだが……
「何でまだいるの?」
「いちゃ悪い? 私は人間が大好きな物好きな妖精だからいいのよ」
「そういう問題なのか?」
せっかく帰郷したからと、アリスも自宅に帰っているし、オリーブは妖精の長老と植物について語り明かしている。
アンナに至っては、勇者だからということで妖精たちに戦闘術について教えていたりする。
そんな中、やることがなく大木を眺めていた誠哉のところにやってきたのがフーリであった。
何でも、交渉に時間がかかった根本の原因というのが、この村のある風習にあるという。
実をいうと、アリスは1年間村に帰ってはならないといわれていたらしい。今回は、緊急時の特例として、帰宅が認められたのだとか……
「まぁなんにせよよかったのかもな」
「何が? もしかして、アリスが帰れたことだったら、かなり的外れだよ」
「そうなのか?」
「そりゃそうさ。アリスほど決まりに忠実な奴はいないからな。まっそれ以上に主の意志が大切なんだろうけどね」
フーリはどこか遠くを見つめているように見えた。
その視線の先には、大木のてっぺんがあり、その上は雲がかかっていて、てっぺんを見ることができない。
のちにフーリに聞いたところ、村から1年間外に出る妖精を選ぶ儀式の前後1週間のみ雲が晴れて木のてっぺんを見ることができるのだとか……
「不思議だな。何層にも重なっているはずの迷宮でここだけが、吹き抜けみたいに上空とつながっているなんて」
「あら、外のニンゲンは考え方が違って面白い。いやー確かにそうかも、この木の上の方に行けば人間の世界もちゃっかり見えちゃうんだもの。下からだと人の営みなんてさっぱりですもの」
「へー妖精ってのは外の世界に興味あるものなのか?」
「いや、そんなふうに外に興味がある物好きなんて私ぐらいだろうね……だって、ここの奴らはこの場所に固執しすぎている……こだわりすぎてるんのよ。だからこそ、こんな場所は壊して造り直す必要がある」
フーリの目からはその意思が本気だと感じられた。
本当に彼女は何かをたくらんでいるのではないか。そう感じさせたのだ。
「フーリ?」
「おっと、今のはちょっとした冗談だから本気にしたらダメよ、ニンゲン君」
「あっあぁ……面倒事は避けたから、それならそれでいいんだけど……」
口ではそういうもののどうしても不安がぬぐえなかった。
出会って間もないフーリだが、彼女の様子は異常だと誠哉の勘が頭の中で警鐘を鳴らしている。
「冗談か……」
「クスクス。おかしい……本気だと思った? 仮に私がここを壊そうとして、一人の力でどうなるの? 無理に決まってるじゃない。まったく……人間から見れば小さな村だろけど、ここには多くの妖精がいて、その数だけ人生がある……それをすべて壊して造り直すなんて不可能に近いでしょ? 永劫の理想郷なんて造れたらいいでしょうけどね」
そう語る彼女の顔はどこかさびしげだった。
彼女が何かしらの理想郷を夢見ているのは事実なのかもしれない。結局、どんな立場のどんな人でも何かしらの形で夢を見ているものだ。
「でもね、私は夢を追いかけてみたいなって、私ったら何を言ってるんだか……ごめんね」
「いや、別に夢を見るのは悪いことじゃないと思うよ。まっ追いかけるのが面倒かもしれないけどね」
「あら? 確かにそういう考え方もあるか……参考にさせてもらおうかな。ニンゲン君」
「それと、面倒だけど訂正させてもらうとボクは人間君じゃなくて誠哉だ。沖村誠哉。何の変哲もない人間だ」
フーリはクスリと笑って小さな手を誠哉の手に重ねる。
「改めて妖精のフーリよ。よろしく」
「あぁ。こちらこそよろしく」
木の上を覆う雲の隙間から漏れる月明かりが手をつなぐ二人の影を幻想的に映しだしていた。




