第三十二話 村の入り口
フーリと出会ってから約半日。
誠哉たちは、妖精の村の入り口まで来ていた。
「にしてもすごいな……」
外から見ても目を引くのは、迷宮の上層を突き抜けて生えている大木だ。
そもそも、妖精の村の周辺は、周りの迷宮と違ってくりぬかれるような形で頭上に岩盤がなく、直射日光がさんさんと降り注いでいるのだ。
そのためか、このあたりは周りの森よりも若干明るいように感じた。
よくよく考えれば、あの木には見覚えがある。この世界に召喚された直後、森の中心から高く伸びるその大木は魔王城からもバッチリと見えていたのだ。
迷宮の中心……迷宮の象徴とされているのになぜか、誰もたどり着けない伝説の大木などとマアサが言っていたはずだ。
「まさか、第二層から上の層へかけて生えていたなんてな……」
「えぇ。それに、いつまでのたどり着けないというのは、妖精たちが自衛のために張っている結界の影響ね。この場にいても、強い結界が張ってあるってわかるわ」
「結界?」
目の前には普通の森があるだけで、とてもじゃないがそんなものがあるようには見えなかった。
だが、アンナの表情は至って真剣なため、そのような類の力を確かに感じ取っているのだろう。
いや、本当にそうなのかはさっぱりなのだが……
「セイヤ君。あの木にまつわる伝説を知ってるかい?」
「さぁな。面倒なことに異世界人だから、そういうことも人よりは知識が少ないかもな」
「そうか……いや、私もあまり信じてはいないんだけどね、あの樹木の上には、天界なる場所へとつながる隠し扉があるなんていう逸話さ。まぁ実際問題、あの木に登れるのなんて妖精ぐらいなんだから、作り話だってのは容易に想像できるけどね。そもそも、天界なんて存在しているかどうかも怪しいし」
オリーブは、はるか上まで手を伸ばす気を見つめながら、小さくうなづいていた。
もしかしたら、天界が存在するかどうか確かめる気なのかもしれない。
「にしても、遅いな。面倒なことにずっと待たされてるけど……」
「仕方ないと思いますよ? 少なくとも私が生まれてから今までニンゲンが第二層へやってきたことはありませんから。まぁ魔王とその身内ぐらいなら、よく第二層を訪れていたみたいですけど……」
「なるほど……魔王がね……」
魔王と聞いて真っ先に思い浮かんだのは、当然ながらマアサだった。アリスの話が本当ならば、マアサは時々この層を訪れていたということなのだろう。
しかし、マアサのことを魔王だと知らなかったことを加味すると妖精と魔族の交流は皆無に等しかったに違いない。
真相を確かめたいところだが、この場には勇者であるアンナがいる。とてもじゃないが、自分が魔王の身内だと話すわけにもいかない。
誠哉は天空を突き破らん勢いで伸びている大木を見て、しばし考え込んでいた。
*
結局、長老たちと話をつけてきたフーリが戻ってきたのは、翌日の朝であった。
彼女は時間がかかったことを特に詫びることもなく、結界の隙間(ただの茂みにしか見えない)から中に入るように促していた。
「こっちの道じゃないのか?」
「あぁ……そうだね、あなたの言葉を借りちゃうと面倒なことに道に迷ってここに戻ってくるってところかな? そうなるように術式がかけてあるらしいから、正規ルートじゃなきゃ村にはたどり着けないわけさ。わかったら、サッサとついてきてくれる?」
そういうと、誠哉たちの返事を聞くことなくフーリはふわりととびだって、茂みの中へ入っていく。
それに続くようにアンナ、オリーブ、誠哉、アリスの順に茂みの中へと入って行った。




