第三十一話 森の妖精
皆が起きて、改めて門の前に立つと、それがかなり立派なつくりであることが分かった。
マアサはこの場にはいない。あの出来事の直前、マアサはしばらく別行動をしたいといっていたのだ。
つまり、マアサからすれば今回のことは、ちょうどいい機会だったのだろう。
彼女がどこにいるかわからないが、おそらく上層にいるはずだ。それが迷宮のとは限らないが……
彼女が今、どこで何をしようとしているか非常に気になるが、今は目の前の迷宮だ。
「それにしても、上とほとんど景色が変わらないな」
「そうですね。私も上に行ったとき、そう感じましたから……それよりも」
アリスは、アンナたちをぐるりと見回した。
「主が心配ないというなら、大丈夫だと思いますけど、マアサさんが少し心配ですね」
心配そうな表情を浮かべるアリスの頭を軽くなでていると、彼女の不安を解消させようとしているのか、明るい顔で話しかける。
「私の推測が正しければ、マアサ君は上に残ったようですね」
「うん。まぁ別行動がしたいなんて言ってたし」
オリーブとアンナの意見を聞いて安心したのか、アリスの表情も明るくなる。
それを見た、アリスはアンナの方を向いたまま話しかけた。
「そうですね。さて、そろそろ出発しますか?」
「うん。そうしようか」
三人は、無言でこちらに同意を求めてくる。
誠哉がうなづくと、アリスを先頭に巨大な門をくぐった。
*
森の中は頭上に茶色の岩盤があることを除けば上の層と何ら変わりなかった。
しいて言うならば、今のところ魔物とのエンカウントがないことだろうか?
「随分平和ね。上の層だと、大なり小なり魔物が出てきたのに」
「確かにそうね。となると、魔物の発生源は第一層ということかな」
「面倒だけど、そうかもな。戻らなきゃいけないってことか……」
誠哉は、いかにもめんどくさいといった様子で頭をかいていた。
実際、アンナとしてもこれは同意見だ。アリスがすっかり張り切ってしまっているため言いにくいが、仮に魔物の発生源が第一層にあるのなら、急いでそこに戻る必要があると考えていた。
「でも、上の層とは限らないのでは? セイヤ君たちの意見には一理ありますけが、出会っていないだけで下に原因があるのかもしれませんね」
「まぁそういう考え方もあるか……面倒だけど、このフロアもちゃんと探ってみるか……」
のんびりとした気持ちで森の木々を眺めながら歩いていたその時である。
がさがさという音がしたかと思うと茂みから小さな影が飛び出した。
「面倒だな……なんだ?」
「わかりません……ってあなたは!」
驚きを隠せないでいるアリスの視線の先にいるのは、色黒で白いワンピースに身を包んだ妖精だった。
「フーリっていうの。よろしくー! いやーアリスが迷惑かけてない?」
「いや、面倒なことにここであえて語るようなこともないかな」
「そうかそうか。まぁそんならそれでいいや。久しぶりの再会だし、そんなことは気にしても仕方ないってことで」
フーリと呼ばれた妖精は、空中で一回転して誠哉の肩に止まる。
「まぁいいや。どっちにしてもさっさと行こうじゃないか! さて、人間君。君たちはどこへ行くの?」
「こっちではどうかは知らないけど、面倒なことに上の層では、魔物の出没が確認されている。だから、その原因を探してるわけだ」
「なるほどねーそうだ。うちらの村に来ない? このさいだし、情報はきっちりと共有したいからさ」
肩に乗る妖精は不敵な笑みを浮かべていたが、アリスが耳元で“私の知り合いです。別に悪い人じゃありません”と言っているものだから、変なことをたくらんでいるということなないのかもしれない。
「わかった。面倒だけど、案内してくれる?」
「珍しいこと言うね! 普通なら、手間がかかるのはこっちだっていうのに!」
「気にしてたらきりがないので、つっこんだら負けですよ」
「つっこんだから、負けか! うん! 気に入ったよ! さて、そうと決まったらさっさと行こうか」
誠哉の肩から飛び立ったフーリは、飛び出してきた茂みの方ではなく、誠哉たちが歩いてきた道の中央を飛びはじめ、誠哉たちはそれについて行った。




