第三十話 転移装置
「なるほどね……これが……」
アンナは低木を見るなり、何かを感じ取ったらしくジッと観察するような目で低木を見ていた。
アリスが目覚めた次の日、彼女が迷宮探索を続けたいといったため、誠哉は皆を連れてあの低木の前に立っていた。
昨夜、この場所の話をしたところマアサが行きたいと言い出したためだ。
到着するなり、マアサは根元あたりを丁寧に調べ始めた。
「どうしたんだ?」
「ぼんやりとですが、ここは幼いころ父に連れられてきたことがありますの」
マアサの父親ということは、誠哉の先代の魔王のことだろう。つまり、マアサは幼いころから父親に連れられて迷宮へ来ていたということなのだろう。
「それで? ここには何があるんだ?」
「そうですわね……転移装置というものをご存知ですか?」
「転移装置? これまためんどそうな……あれでしょ? それを使ったらどこかに飛べるとかそういうやつでしょ?」
「えぇ大体そんなものですの」
まさか、目の前にある低木がそれだというのだろうか。いくらなんでもオーバーテクノロジーと言わざるを得ない。
はっきり言って日本よりも技術水準が低いこの世界でそのようなものができるとは到底思えなかったのだ。魔法でそういったものがあってもおかしくないのだが、魔法の場合移動できてもせいぜい半径1メートル程度で遠くへ人を飛ばすということはできないはずだ。
「本当にそんなものが?」
「えぇ。なんでも古代文明は非常に技術力が高く、現在、いかなる技術や魔法を駆使しても実現できないようなものを多数造ったと言われてますの。転移装置はその一つにすぎませんわ」
「なるほどな……」
つまりは、ファンタジーの定番である発達していた超古代文明があり、どこかに遺跡があるとかそういうことなのだろうか。
それにしても、こんなただの木にしか見えないものが転移装置だとは……まったくもって驚くしかない。
「ありましたわ。起動装置」
「それで? 面倒事がないように聞くけどこれは、どこへ行けるの?」
「えっと、迷宮の第二層のようですわ。これで下層へも行けるということですわね」
「えっ?」
あまりにもあっさりと事が進みすぎではないだろうか?
下層への入り口なんて言うのだから、もっと大きな階段だとかそんなものを想像していたのだから、まるっきり的外れだ。
「まぁ下層への入り口がでかでかと目立つものでしたら、とっくの昔に多くの冒険者が向かっているでしょうし、これぐらいが妥当だと思いますわ。それと、起動しますので少し木から離れてくださいまし」
「はい……よくわかりませんが、これから下の層へ行けるというのは確かみたいですね」
オリーブはマアサの言ったことが良く理解できていないらしく、首をかしげていた。
対して、アンナとアリスはどこか納得した様子でうなづいている。
しばらくすると、低木が光を帯び始め、あたりは真っ白な光に包まれた。
「……それでは、行ってらっしゃいまし」
マアサのそんな言葉を聞こえたが、彼女にその意味を問う余裕はなかった。
少しの浮遊感のあと、誠哉たちは意識を失った。
*
「……ここは?」
誠哉が目を覚ますと、目の前には巨大な木製の門がそびえたっており、そこからはただならぬ気配を感じ取れた。
周りを見ると、アンナやアリス、オリーブの姿があった。
「いったいどうなってるんですか?」
三人の中で一番最初に目を覚ましたのはアリスだった。
彼女は不安げに周りを見た後、門の方を向いた。
「……第二層。妖精たちの大地……」
「えっ?」
「この層の別名です。各層には、このように名前があるんです。たとえば、第一層なら希望にあふれた冒険者の森と言われています」
「なるほど……そういうことか」
上を見ると、茶色の岩盤が見えていて、なんだか不思議な気分になる。
ついさっきまで、あの上にいたのだ。どういった原理で大地が持ち上がっているのか知らないが、迷宮が階層構造であるということを直に示してくれているように感じる。
「それで? どうするおつもりですか、主」
「そうだな……間違ったら面倒だし、妖精たちの大地っていうぐらいだから、案内できるの?」
「えぇ、もちろんです」
アリスは、嬉しそうに笑みを浮かべてあたりを飛び回っていた。
気づけば、先ほどの気配はなくなっていて、開け放たれた門の向こうにも普通の森が広がっているように見えていた。
読んでいただきありがとうございます。
この話から第三章です。
マアサはどこにいるのか? などということはまた後程……これからもよろしくお願いします。




