第二十八話 二つの考え
いつまで経っても地面にその身が叩きつけられる気配がない。
目をゆっくりとあけてみると視界に入ったのは緑の葉っぱだった。
「えっ?」
確かに木の根もとには葉が落ちていたが、落下の衝撃を和らげるほどの量ではなかったはずだ。ましてや、その量が増えているようにも見えない。
「まったく世話が焼けるお兄様ですわ」
「ほんとほんと。君にはいっつも世話を焼かされるんだから」
「おや? 皆さんずっとそうだったみたいですね」
ゆっくりと周りを見てみると、自分の体がわずかに浮いているようだった。
さらに言えば、マアサ、アンナ、オリーブの三人が協力して魔法を使っているのが見て取れたのだ。
「浮遊の魔法。成功ですの」
「三人の力が必要とは……いやはや大変ですね」
オリーブの顔はあきれているような口調に反して、目を輝かせ興味津々といった様子だ。
「まぁ実力があれば二人や一人でも可能なのですが……アンナさん。大丈夫ですの?」
「えぇ。事前に魔力を分けてもらってるので何とか……でも、そろそろきついかも」
アンナの顔を一筋の汗が流れて行った。
彼女の言う通り、限界が近づいているのかもしれない。
「というわけですので、お兄様。衝撃に備えてくださいまし」
「えっ? ドユコト?」
いうのが早いか、落ちるのが早いかというぐらいのタイミングで誠哉の体は地面に着地する。
衝突寸前とはいえ、人の膝ぐらいの高さだったため、背中に衝撃が走った。
「痛っもう少し下ろし方あるだろ……めんどくさい」
「おや? お兄様に置かれましては、私たちの助けなどいらずに見事きれいな着地を決めていたとおっしゃっていますの?」
「いえ、あの。ありがとうございました」
何だか知らないけど、マアサが怖い。
この時、誠哉が抱いた率直な感想である。
それはさておいて、中心のアリスを失ってもなおその形を保っている木の迷路は、真下から見ると巨大な魔方陣であると理解できた。
それにどんな効果があるのかはわからないが、恐らくは森の木々の成長を促すようなものなのだろう。
「ほう。仲間同士の情というやつか。くっくっくっくっ運命に縛られた者とそうでない者。それらが互いに協力し合うとはまた、面白い」
今度は、アリスの声ではなく、頭の中にトーンの低い男性の声が直接響いてきた。
誠哉は、魂の大樹の中心をじっと見つめたのち、口を開く。
「仲間同士助け合って何が悪い!」
「ふん! 所詮は貴様らなど世界を構築する歯車にすぎん! 我にしても勇者にしてもだ! 歯車など一つ欠けたところでこの世界が変わることはない。再び代替が用意され、その役割を担うだけだ! どうせ、この世界など観測者どもの」
「黙れ」
魂の大樹の言葉をさえぎるように誠哉の低い声が響いた。
「なぬ?」
「二度も言わせるな、めんどくさい……」
誠哉の背後から強風が吹きはじめ、誠哉を中心とした巨大な魔方陣が展開される。
「……焼き尽くせ」
「なっ待て! 我は我は!」
何かを言いたげだったが、それを許されることなく魂の大樹は炎に包まれる。
ごうごうという音を立て、燃え落ちていく大樹に背を向けて立ち去ろうとした。
「我がそう簡単にやられるとでも思うたのか?」
不意に声がして振り返ってみると、魂の大樹の前には巨大な木製の盾ができていて、それが見事に炎を防ぎ切っていた。
その盾の前に誠哉の手をすり抜けたアリスが神々しいほどの光をまとって下りてきた。
「……この小娘が我の支配下にあることを忘れていたようだな」
「くそっ! まだ操ってやがったのか! めんどくさい!」
「この小娘の妖精としての力はちと強いからな。もう少し引き出すことができれば子の迷宮全体へ影響は波及するであろう。我に不可能などない! そう、我は忌まわしき者どもすら一掃するのだ!」
魂の大樹を中心にとがった根っこが地面から次々と飛び出してきた。
それを精いっぱいかわしつつアリスへの接近を試みるが、なかなか彼女のところへと近づけなかった。
「お兄様! 左へ飛んでくださいまし!」
「えっ?」
刹那、誠哉の隣を巨大な炎の塊が通過していった。
それは、アリスの横をかすめて大樹の方へと突っ込んでいく。
「妖精の力というのは主に二つ。一つは森を形成し身を守るもの……もう一つは森を破壊するものなんですよね。そして、マアサ君が放った炎はただの炎ではない」
「そんなもの聞かぬわ!」
再び形成されなおした盾に炎が当たったとたんにアリスの力によって形成された分の森が一気に縮小し始めた。
「彼女の炎は、二つの力を持つものが片方の力を行使しているとき、もう一つの力へ強制的に切り替えさせるもの……つまり、今は成長ではなく破壊効果が発動してきているわけですね」
彼女がそう言っている間にも大樹はみるみると小さくなり、やがて消滅してしまった。
読んでいただきありがとうございます。
なかなかうまいところで切れずに結果、いつもよりも長くなってしまいました。
これからもよろしくお願いします。




