第二十七話 誠哉VS大樹
制限時間が迫る中、枝の成長は完全に止まってしまった。
誠哉は、思い切って自らの足を縛っている枝を切った後、迷路を形成している枝へ向けて走り出した。
こうして間に合うのかと聞かれれば、一か八かと答えるだろう。だが、深く考えても仕方ないので誠哉はがむしゃらに走っていた。
そうしていても、無情なことに制限時間は徐々に迫ってきていた。
体は、徐々に重力を感じはじめ重くなっていく。
時折、虚空に足をすくわれそうになるが、必死に持ちこたえる。
地上であれば30秒もあれば走れる距離なのだが、移動時間は制限時間の約1分半を越えようとしていた。
だが、誠哉はあきらめない。
最後の力を振り絞って飛び上がり、木の枝の端につかまった。
つい先ほどまでの余裕な態度だった自分を呪いたいぐらいの気分だ。
「敵がだれであろうと油断するなってことか……面倒だな」
「人間よ。なぜ、そこまでする。このような小娘さっさと捨てればよいものを」
声は確かにアリスだが、その口調はひどく冷たい。
おそらく、魂の大樹がアリスを通してこちらに喋りかけているのだろう。つくづく知能の高い植物だ。
「捨てる? こんな状態なのに放っておいたら余計に面倒だろうが」
「何を言う。我は、この小娘本来の力を覚醒させているのみ。この力さえあればかつての大侵略で枯渇した大地も潤い、邪魔な者どもをこの神聖なる地から追い出せるのだ。邪魔をするではない!」
「侵略? 面倒なことにこっちは異世界人だから、その辺の事情はさっぱりだからよくわからない。だけど、どんな事情があろうと仲間を危険にさらすなら許すつもりはないよ」
どこを向けていいかよくわかっていなかったが、とりあえずナイフの切っ先を木の中心に向けてみた。 ふと、アリスの方に視線を戻すと光の中にいるアリスが高笑いしているように見えた。
「ほう? よく言ったものだ。我は、人間の記憶を見ることができる。貴様の記憶を見る限り、口が裂けてもそのようなことを言える身ではなさそうだな」
「まぁ以前はね。でも、今は違う。人は変わることができるらしいからね。面倒なことにいつまでたっても根本は変わらないらしいけど」
まだそこまで接近していないはずなのだが、相手の攻撃の範疇にあるらしい。
そこから考えると、アリスが枝を張った範囲が相手の攻撃が及ぶ範囲なのだろう。
「それで? ボクの記憶を見た感想は?」
「あまり気分は良いものではないな」
その答えとともに攻撃が槍のように鋭い木の枝が飛んでくる。
誠哉はそれをゆらゆらと風に揺られる葉のような動きでよけきり、勢いそのまま枝の上に立った。
「そうか……こちらから言わせてもらうと、記憶をのぞくなんて面倒なことをした上にその情報だけで人のことを判断するなんて面倒なこと極まりないと思うけど? っていうか、そういうの嫌いなんだよね。大してその人を見ようとせず、学歴や職歴、容姿、頭の良さや運動神経! そればっかりで優劣つけるなんて面倒なことは絶対に認めない!」
「何を言う。人間という種族はそれですべてを決めている。すべて、数値にだし、物の優劣を決め、数値が出ないことでもさらにそれを求めようとする。きれいごとを抜かすな!」
誠哉はナイフを二本手に取り、それを今度はアリスの方に向けた。
「面倒なことにお前の言い分って間違ってないんだよね。でもな、いや。だからこそ、あえてきれいごとを言わせてもらう! 仲間を傷つけるやつは絶対に許さない。たとえ、ボクが何者でも、どんな過去を持っていても、お前にどんな事情があっても!」
思い切り力を込めて、ナイフを投げた。
投擲されたナイフは、きれいに弧を描いてアリスの両脇にある枝を切った。解放された彼女は、力なく重力に従って落下を始め、地上へと近づいて行った。
誠哉は、思いきり足場の枝をけり、彼女の方へと飛ぶ。
それなりの距離があったはずなのだが、すんなりと小さな体を空中でキャッチすると、誠哉の体は勢いよく地面へと吸い寄せられていった。




