第二十六話 木の上のアリス
慎重に慎重にと自分に言い聞かせながら、マアサに接近するが、彼女が再び動き出す気配はない。
相当ド派手にやったし、今の攻撃ではさすがに助からないと木の方が判断したのだろう。しかし、そこらへんは我らが魔王である。
脈はちゃんとあるし、息も浅いとはいえ問題なさそうだ。
今の攻撃で偶然にもアンナの方も巻き込まれていたようで彼女も気絶していた。
あまりにもあっさり過ぎる決着に思えるが、一番の問題がいまだにそびえたっていた。
「あとはアリスか……」
木の上を飛んでいる彼女に接近するには気をよじ登るのが手っ取り早いが、それをやろうとすると先にこっちがやられかねない。
オリーブがアンナとマアサを安全な場所まで引きずって移動しているのを横目で確認しながら、対処法を考えていた。
「面倒なことになる前に聞いておくけど、どの程度まで近づいたら危険なんだ?」
「さぁどの程度かはわかりませんね。だって、まともに帰ってきた人なんていませんし」
「面倒なことこの上ないな……あんまりやりたくないけど、あれやるか」
できる限り使いたくない手段だが、今回ばかりは仕方ない。
誠哉は、魔道書を懐にしまい木を囲むように魔方陣を描き出した。
「あの……何をするつもりなんですかね? さっぱり見当がつきませんが」
「まぁ面倒なことに人間ってのは万能じゃないからな。それを補うためのものだ……」
描き終えた魔方陣が緑色に光り、誠哉の体がふわりと浮いた。
「えっえっ!?」
「無自覚階層か。面倒だけど面白いのを引き当てたな」
誠哉はまるで階段を上るように空へ空へと上っていく。
見えない足場でアリスが飛んでいるのと同じ高さまでたどり着くと今度は、横へと移動し始めた。
「ちょっと、どうして歩けてるの? 私のデータだとセイヤ君が歩ける要素が皆無なんですがね」
「あぁまぁ……これはちょっとな。どうせ借り物だから、面倒なことにすぐ使えなくなるから問題ない」
アリスが戦うところを見たことないのだが、普段の戦闘時に隠れているところを見るとそんなに強いわけではないはずだ。そんな油断から、のんきに地上のオリーブと会話していたのだが、これは彼女の実力を知らなかったからに他ならなかった。
「セイヤ君! 危ない!」
「危ないってどういう……」
周りを見ようとしたときにはすでに遅く、足を木の枝に取られてしまった。
その根元を見るとアリスの足元から出ているようだ。
「なんだ……これ……」
気づけばアリスを中心に大きな枝が円形を形成されていき、その間を埋めるように小さな枝が複雑な模様と作っていた。
おそらくゲームであれば壮大なBGMが流れることであろう。だが、残念ながらここは現実世界だ。響いているのは謎の破裂音ときれいな歌声だ……
「歌声?」
妖精というのは、そもそも歌で森を形成して身を守るなんて言う伝説があると聞いたことがある。
つまり、今まさに中央で光に包まれているアリスが木に操られてその力を行使しているということなのだろうか。
「きれいですね」
「見てるだけならな……だが、面倒なことにあれの中心に向かわなくちゃいけないだよな」
そんなことを言っている間にもアリスとの距離は広がっていく。どうやら、空間拡張の類の効果もあるらしい。
そこを複雑に枝を介していて巨大な迷路を構築していた。
周りの森も薄い緑の光に包まれて一気に背を伸ばしていく。
足を縛っている枝をてっとり早くナイフで処理したいが、無自覚階層の残り時間を考えるとそれは、あまり現実的な方法ではない。
どうやら、迷路の形成はほぼ終盤らしく自分のところまで足場がくる気配はなかった。つまり、このままでは、向こうにたどり着く前に地面へまっさかさまという可能性が非常に濃いのだ。
「くそっどうすれば……」
効果が切れるまであと1分と30秒。
誠哉は、この状況を打開する方法を導き出そうとしていた。
マアサと誠哉の兄妹対決にご期待されていた方、ごめんなさい。
一応、アリスの戦いをメインに添え、彼女の能力についていろいろと書いていく予定です。
これからもよろしくお願いします。




