第二百二話 王宮の歴史書
王宮図書館のすぐ隣にある資料室。
ここには、館長のマリーが数十年にわたって書き続けている歴史書や国内各所より集められた学術書などが収められている。
ここは王宮図書館とは違い、王宮内に入れる者ならだれでも入れる場所だ。
そのせいもあってか、王宮お抱えの学者を始めとした多くの人の姿があった。
「図書館とは大違いね……」
一応、魔王城図書館はだれでも利用かと銘打ってあるが、訪れる者は少ない。
それに比べて、この場所の人の多さと言えば少々驚きを隠せない。
「それはともかく……」
そんなことを気にしている場合ではないとばかりにローズは棚を探り始める。
探しているのは、この国の歴史書と魔族領に関する歴史書だ。仮にマリーが意図的な歴史の改竄をしているのならば、この二つのうちどちらかにその証拠が眠っているはずだということだ。
まず、王国の歴史書は何よりも書いてある量が多いし、魔族領に関するものであれば何よりも自分の方が詳しいと自負している。
しかし、彼女が書いたものはたとえ間違っていたとしても事実となってしまうため、単純にそれを見つけるのは難しい。
一番手っ取り早い方法は、いくつかの歴史書を突き合わせて矛盾点を探すことである。
どうしても意図的な改竄をした場合、どれだけ注意したとしても巻をまたいだときに何かしらの矛盾が生じる可能性がある。
おそらく、彼女以外の記録者がやっているのはその矛盾点を見つけて正しい方向へ正しているということなのだろうが、やはり根本の原因であるマリーをどうにかしなければいつまでたってもいたちごっこのまま問題が解決することはない。
「にしても、かなりの量ね……読み切るだけでも一苦労かもね」
やっと見つけた歴史書は、マリーへと代替わりした後の物だけでも数十冊に及ぶ。
そこに魔族領に関する文献を合わせるとなると、矛盾点を見つけるという作業には相当な時間を割かないといけないだろう。
とりあえず、ここに毎日通うわけにもいかないので、王国の歴史書と魔族領の歴史書、それぞれ5冊ずつを研究目的として借りる申請をしていたのでそれらを手に取って入口の方へと向かう。
「これで見つかればいいけれど……」
ローズは大量の本を抱えながら、そうつぶやいた。
*
魔王城図書館へ戻ったローズは、持ってきた本を書斎の上に置き、椅子に腰かける。
「おかえりなさいませ」
ちょうど、その時である。
図書館の掃除でもしていたのか、マリナが書棚の間からひょっこりと顔を出した。
「またいたの?」
「まぁはい。誰も手入れしないとどんどんと汚れてしまうので……」
そういう彼女の手にははたきが握られているので掃除をしていたのは間違いないだろう。
「紅茶でも淹れますか?」
「そうね。お願いしようかしら」
どうやら、新しいメイド長は相当気が利くようだ。
前のメイド長……つまり、現国王もメイドの働きは悪くなかったのだが、こういった面が少々不足していたように感じる。
だからこそ、マリナの対応は新鮮に感じた。
「それでは少々お待ちください」
彼女は頭を下げて、図書館を後にする。
「それにしても……ノエルはノエルで何者かしらね?」
少なくともローズが図書館の館長になる前から城にいた記憶がある。
ただし、メイド長という立場になったのは先々代の魔王の時からだと記憶しているが……
本人は魔女であることを否定しているし、仮に天界サイドのニンゲンならばある程度、知っているはずだ。
しかし、彼女には一切それがないのに容姿をとどめながら長い時を生きている。
「……まさかね」
もしかしたら、記録者を始めとする天界のニンゲンや魔女以外に不老不死になることがありえるのかと勘ぐってしまったが、それはないとすぐに考えを断ち切った。
マリナが紅茶を出す頃になると、ローズは先ほどまで考えていたことなどすっかり忘れて読書にふけっていた。




